電脳塵芥

四方山雑記

中国深センにおける男児刺殺事件の背景としてのデマ・ヘイトスピーチについて

 深センにおける小学生男児の殺害事件に対しての記事だが、本題に行く前に目に入った日本におけるデマに触れておく。


https://x.com/napori_ankake/status/1836981034317140355


https://x.com/superwangbadan/status/1836916067387773252
※下にコミュニティノートがあるが長くなるので省略

まず「献花を強制的に撤去」は事実誤認であり、在広州日本総領事館には次の様に述べている。

深圳日本人学校には、既に1,000を超える花束が届いております。学校は、現地の気候を考慮して、冷房の効いた献花室にお花を移しました。ご遺族にも刻々お届けしております。当館にも3,000件を超えるお見舞いの書き込みを頂いております。こうした哀悼とお見舞いのお気持ちもご遺族に必ずお届けします。

「李老师不是你老师@whyyoutouzhele」はイタリアを拠点としたインフルエンサーであり、寄せられた情報から情報足らずではあるものの事実を言ったまでともいえるし、上記二つのアカウントはそれをもとにした批判とはいえる。ただし実際には学校内に移されているだけであるし、現状の領事館より示された写真の規模を考えるならば最早校門には置いておけないレベルの量ではあるので、中国共産党が撤去に関わったかというとそれは疑問と言え、日本人学校側の対応と考えるべきだろう。ただし、例えば中国政府には今のところ積極的対応は見られず大事にしたくないので、なにかしらの行動を求めた可能性までは否定できない。また次の様に献花はほとんど「同胞の日本人」という投稿も見られた。


https://x.com/Naniwamono1/status/1836757070244421953

こちらに関しては証明のしようが存在しないのだが、投稿者の「浪速者@Naniwamono1」はbioを信じるならば日本の大阪在住者だと思われるし、投稿の前後を見ても彼自身もなんらかの根拠があっての発言とは思われない。あえて言えば共同通信の記事「日本人学校に千束超える献花 中国人ら男子児童に哀悼の意」という記事内に「保護者らが続々と花を持って学校を訪れた」という部分があるが、しかしそれで千束は難しいだろう。また広州における在留日本人は2023年時点で5383人であり、日本領事館が発表した1000の花束、3000件を超えるメッセージが「ほとんど日本人」である可能性そのものは否定できない。しかしながら「李老师不是你老师」による多数の献花に関する投稿では中国人による献花が多い事を思わせる。


https://x.com/whyyoutouzhele/status/1836797739579146739

上記は一例だが*1、日本在住者がなんの根拠も示さずに献花が日本人のものがほとんどと言ってしまうのには問題だろう。また浪速者は後段に「賞賛の声が圧倒的に多かった」ともあり、実際に中国のネット圏においてそういった声があること自体は事実であり、否定しようがない*2。ただし非難の声が多くある事もまた事実である。


https://weibo.com/5970333229/OxSxYad1J?pagetype=profilefeed

上記はweiboにおける在広州日本総領事館による投稿だが、当然ながらこの投稿への返信には暴力への非難や殺された子どもに対する哀悼の言葉が多く存在する。暴力への非難/賞賛を定量的にどちらか多いかなど到底図れるものはないが、見ている言論の場によって斯様に認識は変化する。

背景として語られる中国国内でのデマ・ヘイトスピーチについて

 この事件に対して日本、中国両国で中国のヘイトスピーチが原因ではないかという話がされる事がある。例えばCHINA DIGITAL TIMESに掲載されている記事「【网络民议】“很多人在乎的是立场,是国籍,是历史,是仇恨,根本没人在乎这个生命”」では今回の事件にヘイトがあるのではないかというweiboにおける投稿がピックアップされている。実際のところ現状で犯人の動機は不明であり、またその動機が今後明かされるかも不明な状況なのだが、事情を知っている人にはその説明が一定程度の得心が良く背景が存在するからだ。それを実証的に示しているともいえるのが、CHINA DIGITAL TIMESの「【404文库】念个咒语会下雨|十岁日本男孩被害的背后:快手上278个视频呼吁“拆除日本学校”,点赞量超两百万」であり、そこでは「日本人学校」が排斥すべき存在であるという動画がプラットフォーム上で人気を得ていたことが述べられている。そして主にそれらの動画の類型として、

1.日本人学校の様子を映した一人称vlog
2.国家レベルで日本人学校取り壊しを決定したとするフェイクニュース
3.日本人学校がスパイを養成しているというデマ
4.日本人学校取り壊しを求める感情的非難

以上の四つを挙げている。次は記事に挙げられている動画のサムネの抜粋だが、中国の「愛国的なネットユーザー」の間にこの様に「日本人学校」がバズワード的にターゲットにされている事が観測できる。

そしてこれらが特に規制されるわけでもなく、流布していたことが今回の事件につながったのではないか、という事となる。実際に今回の犯人がそうであったかは不明だが、こういうった背景を肌で感じ取っている人にとってはヘイトスピーチやデマの果てとして起こった事件として認識しているのだろう。またこれらの動画をアップロードできていたプラットフォーム「快手」はNHK中国人気動画投稿アプリ「快手」約90アカウント閉鎖などの措置」によればアカウント閉鎖に踏み切っている事から、中国においても問題であるとの認識がなされたのだろう。最後に404文库の同記事から抜粋するが、その内容は中国に限らず日本にも当てはまる。

※自動翻訳
快手プラットフォームには、私たちの社会で最も多くの暴徒を扇動する人々がいます。このグループの人々は、「愛国大V(引用者注:中国共産党の公式レトリックを遵守し、愛国心、さらには党への愛を主張する中国のインターネットのオピニオン リーダー)」によって簡単に興奮し、惑わされ、切り離されます。 「愛国心」というテーマは、そのようなグループの間でより広範な感情的共鳴をもたらすことが多く、当然のことながら、多くのコンテンツクリエイターが競って利用しようとする「トラフィックパスワード」となっています。
快手プラットフォームにおける「日本人学校陰謀論の人気は、ある程度、現在の国民感情、世論環境、ソーシャルメディアアルゴリズム、そして我が国における愛国的なマーケティングと商業的利益の交差点の産物です。
複雑な国内および国際環境の中で、景気低迷、高い雇用圧力、緊迫した国際関係により、社会感情がある程度滞り、弱い立場にある国民の一部ははけ口を見つける必要があります。ナショナリズムと外国人排斥は彼らにとって安全なはけ口であり、歴史的な敵国である日本は国民の感情のはけ口の格好の標的となっている。
快手の「日本人学校」に関する陰謀論は、一部の人々の日本に対する憎しみに応え、その反日発言がより感情的であればあるほど、これらの人々の共感を呼び、日本の学校を「戦争陰謀」と結びつけている。 」は、一部のネチズンの現在の感情的な期待とまったく一致しません。

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