産経新聞が9月18日付で「<独自>「トルコ人は10月からビザ必要」ニセ情報拡散 外務省「川口クルド問題は認識」」という記事を出していた。記事の一部を抜粋すればトルコのSNS上で広まったデマに対する内容だ。
日本とトルコの間で結ばれている短期滞在の査証(ビザ)免除措置について、トルコ国内の一部メディアやSNS(交流サイト)で「日本政府が10月からトルコ国籍者にビザ要件を課す」との偽情報が拡散、トルコ大統領府が否定の声明を出す異例の事態となっている。日本の外務省も「そのような事実はない」と否定した上で、埼玉県川口市でトルコの少数民族クルド人の一部と地域住民の軋轢が表面化している問題について「問題は認識し、注意深く対応している」と述べた。
この記事は産経におけるシリーズ連載「「移民」と日本人」に位置づけられるものなのだが、ファクトチェック記事としては若干異質な流れがある。上記引用箇所の前半部ではデマの内容と外務省によるデマの否定を述べているがデマの「検証」そのものはほぼないと言える(検証=偽情報の出所とそれに対する反証。引用部分以外の記事全体でそういった検証はしていない)。そして後半では「川口市におけるクルド人との地域住民との軋轢」という「問題」を外務省が認識しているというチグハグともいえる流れとなっている。「「移民」と日本人」というシリーズ連載自体の主張は後半に重きを置いているわけで、外務省も認識する「クルド人問題」が為にトルコでこのようなデマが広がったという主張をこの記事は含ませている様に思える。
ところで実際にこのトルコにおける「トルコ人はビザ必要デマ」の発端はなんなのか。まず言説自体は9月15日ごろに確認できるのだが、トルコのファクトチェック記事*1によるとまず一つ目に2020年のコロナ禍の際における入国制限記事(10月1日にビザ要件導入。2022年にふたたび不必要に)が挙げられる。これが日付と制限そのもののネタ元といえるだろう。ただしもう一つの大きな要因があり、それが感じられるのが次の投稿だ。
https://archive.md/OuXIu#selection-459.0-459.80
そしてこの投稿には次のインスタグラム投稿の画像が使用されている。
日本はトルコに、このままの状況が続けばトルコ国民にビザを発給できると伝えた 日本の報道によると、会談中に日本の国会の外交部長が駐日トルコ大使と会談した。と、埼玉地方での出来事に感じた違和感が伝わってきて、トルコから観光客として来た人たちは申請によって不法滞在し、このままではビザが下りるとのことだった。例えば、同様の問題により、トルコ国民にもビザが適用される可能性があると言われている。
※自動翻訳
上記の投稿は既に削除されているが、これはjaponya_seyyahi(直訳すれば日本の旅行者)という日本在住のトルコ国籍(?)の写真家による投稿だ。このアカウントのインスタ投稿は基本的に写真家の枠を超えるものではなく、また該当投稿は時間制限で消えるストーリーズによる投稿のために彼がどの様な文脈でこの投稿をしたのかは不明だ。そしてソースとして使用されている記事が2023年9月16日の「埼玉・川口のクルド人問題、トルコ大使に衆院外務委員長が懸念伝達 ビザ見直しにも言及」となる。記事内容は埼玉県の衆議院議員である黄川田氏とギュンゲン駐日トルコ大使との会談を記事化したもので、黄川田による当時の記事も存在する。実際、ここでは見出しにある様にビザ見直しにも言及したようだがこの記事の内容がコロナ禍時の入国制限情報が合わさって、10月1日に見直しが決定されたかの様なデマに変異したと思われる。川口における所謂「クルド人問題」はその提示される「問題」そのものに反移民感情を刺激する事やインプレッション稼ぎなどを念頭に置いたデマも含むものがあり、産経新聞の記事を見ていくとデマも含んだこの「問題」の流れに乗っていると言える。ただそれが今回、海を越えたトルコでデマを生むという事案が発生したものだといえる。
■お布施用ページ
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*1:例えばdogrulukpayi。また本記事でRUASENを使用してはいないがteyitも詳しい。