
https://x.com/ymtco/status/1896705441113219088
この「遺体損壊による指輪窃盗」は当時流れたデマの一つなのだが、当時のデマであるとの情報も見つけにくくあるのでメモとして残しておく。まずコミュニティノートにもある2022年8月29日の朝日新聞記事「「遺体から指輪盗まれた」 被災地で広がったデマと人々の心理」で東北学院大教授の郭基煥(当時現地での被災経験有)による調査結果として、この「遺体からの指輪泥棒」は関東大震災や阪神淡路大震災、はてはサンフランシスコ地震においても発生したありふれた流言の一つであると述べている。また当時の宮城県警本部長である竹内直人はこの朝日記事上ではデマそのものには触れていないが、2024年1月27日の毎日新聞記事「不安あおる「震災デマ」 東日本大震災、宮城県警は打ち消しに動いた」においては遺体損壊指輪窃盗説について
警察として、あるいは本部長として、そうした犯罪があったというような話は一切聞いていない
と明言している。当時の現場を知る人間がこの話をデマであると断定していると言って良い。そしてこの遺体損壊系統に関する流言だが、郭基煥の調査によれば仙台市において3割近くの人間が見聞きしたと答えており、当時かなり流布していた流言であることがわかる。

出典:「関東大震災から100年 ~教訓を継承し、迫り来る大災害にいかす」より
現存するネット情報では3月13日時点で既にほぼこの流言が流れている事が確認できる。

https://x.com/Ogatchi/status/46913241267445760
元投稿は既に消えているために何時頃流されたのかやどれくらい拡散したかも不明だが、この時点でデマであるとの指摘もありその後に削除したのだろう。ただしこの時点で現地コミュニティの中でこの流言が広がっていたのだろう。また現存している中では3月17日には遺体損壊については触れていないがおそらく中国人と混ぜ合わせた流言及びその拡散が確認できる。

https://x.com/jam_tamako/status/48258322981330944
当時これらの情報はチェーンメールでも出回っているものでネット上よりもむしろ現地コミュニティにおける流布が主なものであろうから、上記の例などはあくまでも現存する当時のTwitter上での情報のみとなる。だが、これらから現地でこの流言が膾炙していたことが窺える。何故この遺体損壊についての流言が生まれたかまでは不明ではあるものの、現実として津波などの影響による損壊した遺体の多さや災害時故の治安不安などからこういった「合理的」な解釈であったり、コミュニティ外の存在に対するある種の責任転嫁や防衛本能などを見出すことは出来るかもしれない。また阪神淡路大震災時にもこのデマが流れたという様に普遍的な要素のあるデマとして東日本大震災時にも同様にデマが復活したのだろう。また現存する情報ではこの発災後からしばらくしてとなるが、この遺体損壊によるデマの保守派による使用も見受けられる。例えば当時たちあがれ日本の所属であった西村眞悟は2011年5月に「やはり、血も涙もないコミンテルンの走狗」で次の様に触れているし、
福島県内にいた私は、次のような話を聞いた。(略)避難指定地区外の大規模な遺体捜索が行われていた地域では、指や手首が切断され、顎がこじ開けられた遺体が多く発見された、誰かが遺体から指輪や腕時計や金歯を奪ったと考えられる、という話を聞いた。
2011年9月の都議会では石原慎太郎も同様の話を述べている。
なぜかその情報は封じられているようでありますけれども、放射線のおかげで退去を余儀なくされた、まさにゴーストタウンになった、あのまちに空き巣で入っているのは、組織的な中国人だと。しかも、中には津波にやられた部分もありまして、死体が放置されている、警察の手もまだ届かないうちにそこに行って、その死体のしている指輪を指を切り落として持っていく、こういう所業というのは、ちょっと日本人にはできませんな。
冒頭の「原日本@ymtco」もそうだが、石原慎太郎も「情報は封じられている」として「実際にはあった」という体でこの遺体損壊による指輪窃盗を語っている。そもそもその様な「確認できる事実」がないからその様な情報はマスコミなどでは報じられず「流言」としてしか流布していないだけである。なお3月17日には「死体検案書の作成に関する留意事項について」において死体検案書の作成について必要最小限の起債で差し支えないとの通達が出ているが、発見された遺体は簡易とはいえ検案されている。西村は大規模な遺体捜索時にその様な話を聞いたと言っているが、意図的に損壊されたであろう「遺体が多く発見された」という話を聞いたとしているが、事実であるならばこれらの検案の時にこの様な話が出ているはずであり、不自然そうな事例が多くあるならば不自然な遺体として何らかの情報が出ているはずだがそういった報道や報告は存在していない。当然ながら「現地の人に聞いた」という話は必ずしも正しいとは限らない。
最後にいくつか当時の報道や警察情報をリンクとして貼っておく。
2011年3月26日 朝日新聞「「外国人窃盗団」「雨当たれば被曝」被災地、広がるデマ」
2011年4月1日 産経新聞「「流言飛語」被災地で深刻化 デマがニュースで報じられる例も」
宮城県警「被災後10日間の治安状況について」
また当時の宮城県警による地域安全ニュース「きずな」No.13では「デマにご用心」として次のようなビラが現地で配られている。

このビラにおける「遺体から金品を盗む外国人がいる → そのような届け出はない」というのが遺体損壊指輪窃盗流言に対するものだろう。レトリックとしては「届け出はない」は「窃盗がなかった」と必ずしもイコールではなく、またこの遺体損壊による指輪泥棒が本当に一件もなかったという断じる事自体は困難だ。しかし例えばそういった「遺体が多かった」という様なことは確認できず、窃盗団の様な存在も確認できない。やはり当時流行った「普遍的なデマ」の一類型に過ぎないのだろう。
