以前、「豚舎の火災が外国人(イスラム教徒)が犯人かのような言説が生まれてた」という記事を書いたけれど、こういった言説が加速していたので追加で書いてみる。豚舎を含めた家畜舎の火事が起きると「疑念」が起きているが最早常なのだが、そこに加えて今は「神社仏閣」もその「疑念」の材料になっている。例えば次のように。

https://x.com/mattariver2/status/2053091368789229627

https://x.com/mattariver3/status/2053052372004622446

https://x.com/Zq3nhl467327/status/2052813080632201324

https://x.com/Kshi_nippon/status/2047818368078544949

https://x.com/kohakuototo/status/2052257521734496705

https://x.com/DiamonT194244/status/2052705971953414285

https://www.threads.com/@marumo.nikki/post/DYGFiYCksjc
などなど。「畜舎」、「神社仏閣」の火事に対して憤り、それに対して「誰」が犯人であろうかは明言はしていない書き込みは多い。単純に「憤る」だけ、「疑義」だけの様なもの書き込みだけのものもあるが、ただこういった言説を好む人たちには多くを言わずともターゲットはある程度共有されているであろう書き方だ。また英語圏の反移民系言説を行うインフルエンサー「RadioGenoa@RadioGenoa」が「モスクは、燃やされない」といった言説を英語で発信しているが、それに対して日本でも同じことが起きているというリプライが複数ついている様に、結局のところそのターゲットは「イスラム教徒」なのだろうし、それが斯様に拡散する状態とも言える。
畜舎火災に関しては以前の記事に書いたように数年前の統計上では年に100件程度は畜舎の火災は発生しており*1、最近畜舎火災が多いかというとそうでもない。また神社仏閣に関して言えば令和7年消防白書によれば令和6年(2024年)の出火件数は「58件」、令和6年消防白書によると令和5年の出火件数は「59件」、今現在消防庁HP上で確認できる一番古い消防白書である平成20年版(2008年)においては神社寺院等の出火件数は「150件」となる。つまり消防白書上で言えば2026年現在、神社仏閣における出火件数は約20年前の件数を考えれば半分にも及ばない数字になっている事がわかり、むしろ統計上の火災は減っている事が窺える。
以上は「統計」の話だが、次は新聞報道の面からこの「畜舎」、「神社仏閣」の火災を見ていこう。ただすべてを含めると調べるに時間がかかるので検索ターゲットは絞り、畜舎に関して言えば槍玉に挙げられやすい「豚舎」、そして神社仏閣に関して言えば神社の言及が多めに見える事から(これは直近の新潟の愛宕神社火災の影響も大きいが)「神社」のみに絞る。検索に使用する新聞は読売新聞の過去記事データベースのヨミダスとするが、これは「豚舎 火災」で検索したところ朝日、毎日と比較してその検索ヒット件数が多かったことから読売新聞を使用している。
まず「豚舎」の火災報道についてだが、検索ワードとしては「豚舎 火災」というシンブルなもので検索している。記事上で豚舎以外からの出火で豚舎も燃えた場合には数には含めている。ただ「旧豚舎」など火事発生時に使用実績のなさそうな場合は数には数えていない。また例えば全国記事と地方記事であったり、追加報道によって同じ火事についての記事がヒットする事があるが、そういった事例は数は含めず、あくまでも一つの火事について複数の記事が書かれても件数としては一つとしてカウントする。そして期間は2000年から2026年5月12日現在までの四半世紀とする。そして次がその結果となる。

2001年など17件と突出した年はあるし、逆に2020年は1件とかなり少ないが、ただ基本的な傾向として一年のうちに豚舎火災報道は7~9件ほどの間に収まっている事がわかるし、それくらいの頻度で報道するレベルの火災が起こっているという事となる。ここ数年もその件数の範囲であるし、2026年5月現在もこのペースならその程度の報道件数に落ち着きそうである。なお火災原因まで明らかになっている報道は少ないが、出火元と思われる部分の記述の大抵は設備系に関するものが多く、その設備が原因であった事が窺える。全ての記事を精査して読んだわけではないが、放火犯が捕まったという報道も一件見かけた。その動機としては雇用の約束が破られた事に端を発する。「鶏舎」、「牛舎」に関しても記事の精査を行わない状態で検索ヒット数を見てみたが、近年特にこれらの火災が増えているという事実は確認できはしない*2。
次に「神社」の火災報道だが、検索ワードとして「神社 出火 or 火事 or 火災 or 全焼」、除外ワードとして「訓練 守ろう 祈願 再建」を設定している。また検索対象は「見出し」のみにし、本文は抜かしいる。これは豚舎火災とは異なり防火訓練などの記事も多い為の措置となる。それと神社内の林などの火災は数に含めたが、露店からの出火は件数に含めていない。期間は豚舎と同じく2000年からで、火事の対象が重複している記事は件数から除外している。

グラフから見て取れるように00年代には2桁件数が普通だったが、それが下がって10年代中盤からは一桁件数へと変化している。2023年は9件とやや多いとはいえ、全体的な傾向からすれば神社の火災報道については減少傾向であり、これは消防白書の数字とも符合する。この減少原因までは調べてはいないが、文化財の防火については文化庁がガイドラインを作るなどの対策を行っている事からも、防火面からのアップデートが行われた影響が神社にも及んでいるのかもしれない。なお神社の火災報道の中にはその原因として犯人が捕まった系統の報道は豚舎よりも多いのだが、子どもの火遊びが多い様に見受けられる。その他には賽銭泥棒が証拠隠滅の為に焼いた等あるし、ネット上で確認できる記事ではうさばらし、逮捕されたかった、世間から注目されたかったなどもあった。ただ少なくとも現状でイスラム教徒が宗教的信念から燃やしたという報道は皆無だ。なお「寺」の火災に関しても荒い検索(神社と類似の検索ワードだが、重複案件や地名に「寺」がある案件除外などの精査は行わず)でいくつか見たところ、こちらも近年火災が増えている傾向は見えない。
最後に「モスクは燃やされていない」的な言説について書いておく。まず「RadioGenoa」の件があるので簡単に書くが、イギリスではモスクが放火されている報道が確認でき、そこでは憎悪犯罪の可能性があるとしている。他にも探せば出てきそうだが、少なくとも外国でモスクは燃やされている。そして日本に限って言えば、北海道江別市の事例はわかりやすい。江別市ではパキスタン系住民が多く住んでいるのだが、それが一時期からyoutuberなどから「ターゲット」とされて彼らに対するヘイト言説がネットにあふれ、そして今年2月中旬に3件の火災が発生、その中にはモスクも含まれる。犯人は捕まってはいないが期間が集中している事を思えばネットによる言説の影響が考えらる。また2024年には常総市のモスクも放火され、この犯人は捕まっているが、募金箱を盗もうとしたが失敗したので募金箱に付いた指紋などの証拠を消そうと燃やしたとの事で懲役5年となっている。ちなみにだがモスクの件数は2025年7月で全国に167件だとされ、神社は約8万社だとされている。
以上の様に実際の統計であったり、報道件数を見ると昨今の豚舎、神社の火災、ひいては畜舎や寺院などの火災が特筆して多いであったり、「怪しい」という動きは見えない。むしろ神社を見ると火災件数は減っている。ただそういった状況下の中でも「豚舎」や「神社」の火災に対してインフルエンサーなどがそれまでに培ってきた文脈の上に「匂わせ」の様な投稿をすることでこういった「火災の存在」が認知され、そして点と点を繋げて「犯人像」を作り上げていっているし、それが拡散されることでこういった考えに感化される人が出てくるのだろうと。英語圏アカウントの「RadioGenoa」は数年前からその言説が日本の排外系言説アカウントが引用したりしており欧州の排外言説が日本に入り込み、日本のイスラムフォビアはこういったアカウントからの影響も見逃せない。ただそういった言説を広めているのは日本のインプレッション稼ぎで金稼ぎと思われるアカウントだったりもする。政府や報道では最近「認知戦」というワードを見ることが多くなっているが、何も「認知」に影響を与えてくるのは外からの存在だけではなく、内にもいるよ。
【追記】
そういえば書くの忘れていたのだけど、2025年6月に大阪市内の神社でボヤ騒ぎがあった際にSNS上で「イスラム教徒が放火し、『邪教だから火をつけた』と供述している」という情報が拡散した(リンクは朝日記事)ことがあった。ただこれは警察による調べで、10歳前後の3人の男女の子どもによる火遊びが原因とみられるボヤであって*3「邪教だから~」という動機は確認できなかった。このイスラム教徒による「邪教」動機言説は大阪府神社庁が送った注意喚起文書がネタ元なのだが、府神社庁によれば宮司がそう証言したと述べている。そして朝日記事によれば宮司は「イスラム教徒による放火」については防犯カメラにイスラム教徒に特徴的な格好をした子どもも映っていた事を根拠として伝えたそうだが、「邪教だから~」という部分についてはその様に述べた事を否定している。イスラム教徒に特徴的な「子どもも」という事から3人の子ども全員がイスラム教徒的な服装をしていたかは不明ではあるが、少なくともこの部分の証言は見たままを言っていると思われる(とはいえ実際にイスラム教徒かは不明。ただ神社の近くにモスクがあるとのことなのでそこに通う子どもと似た格好をしていたのかもしれない)。しかし動機における「邪教だから~」は果たして報告した宮司、文書を作った神社庁のどちらで生まれた言説かは不明となる。それは兎も角として子どもによる火遊びによる神社でのボヤは言ってしまえばそれなりの頻度で発生してしまっている出火原因でもあり、また10歳前後の子どもが「邪教だから~」という動機は不自然と思わざるを得ない。実際にこの動機は警察、宮司からの否定によってデマであると判断するしかないが、ただこの「動機」は今流布されている陰謀論言説と酷似しており、それが実際に出回ってしまった深刻な事例だと言える。
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