10月9日告示、10月26日開票の宮城県知事選が終わり、現職の村井知事が当選して6選目となったものの参政党の応援を受けた和田政宗との票数は僅差となり、接戦だった。この選挙周辺には数多くのデマが流れており、地元紙である河北新報のデマに対する記事の存在感も目立った選挙戦でもあった。ここで、どの様なデマがあったのかメモとして付けておく。なお、デマに対する指摘内容については既に他メディアで記事があるものはそちらの内容に依拠させてもらう。
本題に行く前になのだが、何故この選挙戦でデマが多くなったのかというとSNS上における参政党支持者の言説の影響が大きいと言えるのだが、それが何故多くなったのかの事前状況だけ軽く説明しておく。まず夏にあった参院選において参政党の神谷宗幣が水道を外資に売ったという街頭演説をした事によって宮城県側がこれを誤情報だとする反論を出したことによって、参政党(神谷)と宮城県(村井)との間で確執が発生する。またこの参院選では今回の知事選に出た和田政宗が落選したのだが、ある意味で言えば落選したことによって知事選に出るという動機も生まれたと言える。ただ和田はSNS上において発生していた「クルド人」周りの言説ではどちらかと言えばバッシング対象となっていた人間なのだが、和田と神谷が参政党youtuberLIVEで対談を行い、その後に神谷は和田を知事選において応援する事となり、ネットの反移民支持層にいくらか存在した和田に付きまとっていたネガティブな感情は消えていったと言える。元々、和田自身はネット右派的な言動も見られるために思想的にも両者の思想的な差異はそこまで大きくなかったのかもしれないし、神谷としては独自候補を出すよりも和田政宗という元国会議員を推した方が良いと考えた可能性はある。またこういった確執とは別に最近のSNS上ではイスラモフォビアとしての土葬拒否、メガソーラー反対、水道民営化反対というのが根強く蔓延っており、そのターゲットとして村井は格好の的であったともいえる。この3つのイシューの大きさは以下の和田の公約からも見て取れる。
なお既に行われているファクトチェックに関しては省エネのためにこちらで軽く列挙しておく。
・NPO法人メディアージ
「【宮城県知事選挙2025】SNSや街頭で拡散される情報を検証|有権者のための事実確認ガイド」
・日本ファクトチェックセンター
「宮城県の村井知事は「メガソーラー大歓迎」など14の悪行? 根拠不明、誤り、ミスリードなど【ファクトチェック】」
「宮城県・村井知事が土葬を肯定? 「完全に断念した」と発言【ファクトチェック】」
・河北新報
「宮城県知事選挙で話題「土葬墓地」検討撤回の経緯って?<かほQチェック>」
「宮城県知事選挙で誤情報がSNSで拡散中 法令違反に問われる可能性も<かほQチェック>」
「取らぬ狸の皮算用? 宮城県知事選挙の主要3候補「財政論」を点検<かほQチェック>」
「宮城県知事選挙に絡め「宮城県がメガソーラー大歓迎」は事実誤認 これまでの経緯と対策は?<かほQチェック>」
「宮城県知事選挙で再び争点「水道みやぎ」導入の経緯って?<かほQチェック>」
「宮城県知事選挙の期日前投票が開始3日間で前回の31倍 なぜ急増? <かほQチェック>」
怪文書、ビラ的画像の作成

作成者:豆蔵(非公認) @CovertMametrix
スクリーンショット引用元:https://x.com/tonoton47967402/status/1980866079431004245
村井に関する怪文書、ビラの類がいくつか作られていたのだが、上記は今回の選挙戦前に発生したデマの大半を集めたものだと言えるかもしれない。ファクトチェック記事はあるのでここに書いてある文言についての指摘は省略する。この画像を投稿したのは「豆蔵(非公認) @CovertMametrix」というアカウントなのだが現在は非公開になっている*1。この画像は9月下旬ごろには既に作成されており、つまりは選挙期間が始まる前から既に村井に対するデマを含む言動が流布していたと言える。

なお作成者はデマであるとの指摘からか非公開化したわけだが、別のアカウントがこの画像を投稿して拡散したまま今も消されずに残っていたりする。この手の怪文書、アジビラは他にもあり、次の様なものだ。

https://x.com/kw_blackout/status/1980835752260100211

https://x.com/OWL15912561/status/1976423865321652639
書いてある主張から彼らの重視している点が何処であるかがわかる。なお3枚目のアカウントは内容そのものは選挙に合わせた内容といえるが、こういった政治的主張を紙に書いてアップするという芸風の人であり、選挙だから流布させたというわけでもない。

宮城県に25万人のインドネシア人

https://x.com/tfTXqXcZPlBHLlT/status/1979074661016015014
テレビのニュース動画を付けて、あたかもソースがあるかのように装っているのだがその様な事実はない。「インドネシア」と「25万人」という数字から見て元ネタは2024年9月15日にインドネシアの外相が「日本に今後5年で25万人の労働者を送り出す目標」を掲げたというニュースだろう。これは「インドネシア・日本人材フォーラム」での発言との事だが、インドネシア外相の発言であって日本政府の目標でもなく、村井知事の目標でもない。なおニュース動画は「インドネシア人材 みやぎジョブフェア2025」についての報道なのだが、そのフェスに際して村井知事は次の様な発言をしている。
村井知事
(宮城県として雇用の不足を補うためには)これからどれくらい人が必要なのか、5年間でどれぐらい必要だというデータがあったよね。
担当課
経済状況を維持するためには3.4万人が必要になります。
村井知事
今後5年間で3万4,000人ぐらいは外国人材を入れなければ賄えないという統計データが出ております。
それで、どれくらいインドネシア人で補塡できるのかというのは分かりません。5年間ですから、仮に1,000人ずつ入ってきたとしても5,000人ですから、まだ全然足りないということです。
上記の様に宮城県の経済状況を維持するための外国人労働者が3.4万人ほど必要な旨は述べているが「25万人」という数字は単純に嘘である。なおこのニュース動画実際の動画に対して独自の合成音声を付け足しており、実際のニュースとは異なり悪質であると言える。ちなみにこの動画の作成者が「ƺㄋƺㄋねʓ®(;👁🐽👁〆;)🐇🐹🐕@tfTXqXcZPlBHLlT」かまでは不明だが、メガソーラーの火災について類似のニュースに合成音声を付け足した動画をアップ(拡散はしていない)している事からこのアカウントによるものの可能性が大きい。
宮城県の水道料金について

https://x.com/sendistone/status/1981164978616094723
宮城県の水道料金が全国に比べて高いという事自体は事実の様だ。また画像の石巻市の水道料金は2023年に上がっており、その事例は全国での水道料金値上げは何故かというニュースの話題の一つとして取り上げられもしていた。なお上記の投稿者は使用水量42㎥だが、東京都のHPによれば5人家族の1か月の使用水量は27.8m³くらいとのことなので、実はこの使用者は結構な水量を使用しているのでそれもまた料金が高くなっている理由でもある。なおこの画像をもってして民営化、外資に売ったせいだという話をしているアカウントもあったのだが、コミュニティノートにある様に石巻市は宮城県とは別の広域水道企業団が運営しており、今回の知事選における「民営化」という文脈を当てはめることは不適切だ。
土葬を餌に「宮城へおいで!」とSNS投稿
デマとはやや違うのだが、「桃色メガホン」というアカウントはクルド人のSNSコミュニティから画像や動画を無断転載して炎上させるといった行為を行っていたりするアカウントがいる。今回の無断転載をした写真は朝日新聞記者の「福留庸友@photofkdm」が撮影した写真であり(にも拘わらず自分のスクリーンネームを入れている)、本人にバレて削除要請と違法行為である旨を述べる様にと注意されていた。その後に「※画像クレームのため再投稿。」といっているが反省の色は見えない。なお桃色メガホンは土葬を餌に「宮城へおいで!」という旨の文章を書いているが、朝日新聞の記事「宮城の外国人労働者、2万人迫る 雇用事業所も初の3千超え過去最多」では土葬を他地域にはない「サポート」と言っており、「宮城へおいで!」の発言も記事にはあるから文章内容そのものは必ずしもデマとまでは言えない。とはいえ既存のファクトチェック記事にもある様に土葬は既に撤回されており、現今の状況から許可する市町村も出なさそうなので撤回を撤回も出来そうな状況とは思えないが。
村井知事の公約達成率0%

https://x.com/inagakisamurai1/status/1981927492341682269
これは「いい政治ドットコム」というサイトに表示されていた公約達成率なのだが、このサイトに表示される首長の公約達成率は全て「0%」で表示される。このページの問い合わせには次の様に現在公約達成状況の実装方法が検討中とあり、つまりは現在このサイトの公約達成率はなんら機能していないことにある。
公約の達成状況を判断するには事実確認などの調査を要するため、半年に一度程度を目安に集計結果を公開し、ユーザーの皆様と一緒に確認できる場を設けたいと考えております。こちらは実装方法を検討中なので、方針が決定しましたら、「お知らせ」ページにてご案内いたします。
前回の選挙の村井の公約は数十にも上るが、その公約達成率を確認できるサイトはない。ただ有料記事のために中身は確認できないが河北新報は「宮城知事・村井氏5期目の公約検証 病院再編、前進と頓挫 経済・子育て、目標未達」という見出しの記事を挙げている。見出しからすれば未達もあるが、少なくとも「0%」とは言えなそうである。
不正選挙論

https://www.threads.com/@kimikottiii/post/DQRN13aAU8Q
自分の投票した候補が当選しない場合に不正選挙論が起こるのは最早避けることのできない話であるが、今回は上記の様な「理屈」によって不正選挙への疑念が拡散していた。そもそも期日前31倍という数字は10月13日に報道され、数字のインパクトもあって「Tokyo.Tweet@tweet_tokyo_web」などが反応を記事化して広まった認識だ。ただ河北新報が記事にしたようにこの「31倍」という数字には癖があって、期日前投票である初日の10日から12日までの3日間の投票者数が前回の知事選の「31倍」というものだが、前回の宮城県知事選は衆院との同日選だった。知事選の選挙期間は17日間、衆院選は12日間であるため当然ながら期日前投票が可能になる日付が知事選と衆院選でズレる。つまりは知事選の方が早く期日前投票が可能になるわけであり、期日前投票の3日間のうちに投票に行くとなる前回はもう一度投票に足を運ばねばいけない状況だった。そういった状況は今回はない為に投票開始3日間内に期日前投票を行った人が前回に比べれば格段に多くなったのだろう。ただ3日間という枠組みでは伸びたが、全体を見れば投票率は46.50%で前回から9.79ポイント下がる結果となった。
とりあえず筆者が把握できた投稿は以上の様なものとなる。またデマとは異なるが、河北新報が「宮城県知事選でユーチューブ動画氾濫 Xで「虚報」と一緒に拡散中」という記事を出していた。この記事内に書かれていた拡散していたという動画は次の様なものだ。

https://www.youtube.com/shorts/uRVkReBEw2o

https://www.youtube.com/shorts/-XL4GzrGGwo
これらの動画は「政治雑学まとめ【最新ニュース】」、「大炎上国会【ネット反応集】」というチャンネルの動画となる。いずれのチャンネルも思想というよりもネットでバズる政治ネタを挙げて利益を出そうというチャンネルの様に見える。こういう類の動画は少し検索するとたくさん出てきてキリがないのだが、注目される選挙程「稼ぎ時」という状況が生まれているといえるのではないかなと。
今回、河北新報が存在感を見せたのだが、とはいえ「かほQ」で検証記事を出し始めたのは10月18日からとなる。選挙期間の中盤くらいからだ。一方で宮城県知事選前から怪文書的画像は作成されており、メガソーラ-、土葬などの話は既に話題の下地が十分に出来ている状態であったし、案の定そういった言説は流布された。今後、こういった「注目」を浴びる選挙、また目の敵にされている首長がおり、参政党が乗り気な選挙に対してはこういったデマの流布を前提とした選挙対策が求められるしもっと迅速に対応できたら動かないとかもねと。
【11月5日追記】

https://www.threads.com/@xiaopengruolin/post/DQlkiOtkTAP
スレッズで上記の様な不正選挙論が若干拡散していた。30倍云々は既に記述したので割愛する。元ネタは名取市において選挙の経費71万円が紛失されたのを受けて盗難被害として被害届を出したというニュースである。この事件をめぐる報道の中で地元放送局のkhb東日本放送は経費が保管されていた保管庫に投票用紙も保管されていた旨を記述していたという情報が発展したのが上記の投稿だろう。なお他者記事も含めて投票用紙が盗まれたとの情報は存在しないし、名取市役所に問い合わせて投票用紙の盗難はなかったという書き込みも存在する(ただこの問い合わせはそれでも疑っているのだが)。これらを見ると投票用紙の盗難はなかったものと言え、不正選挙陰謀論の一種といえる。
*1:ちなみにだがこの画像の投稿時点ではスクリーンネームは「@hotdcpls」だった。現在、この投稿はアーカイブ上からも見つけられなかったが、この画像を投稿したと思われる痕跡は見つけ出せたので置いておく。https://archive.md/Euf22


