電脳塵芥

四方山雑記

「選択的夫婦別姓」と「戸籍廃止」の投稿が増えてきた時期のメモ

 少し前にNHKで「“選択的夫婦別姓導入で戸籍なくなる” SNSで根拠ない投稿拡散」という記事があって、選択的夫婦別姓制度が導入されると戸籍がなくなるという情報が氾濫しているが、現状で想定されている立法ならば戸籍はなくならないという内容だ。ところで、実際に肌感覚では数年前からやけにこの「選択的夫婦別姓」制度が導入されると「戸籍が廃止」されるという論調が反対派に多く見られるようなったように思える。では、この論調は何時ごろからSNS(今回扱うのはTwitter(X))でこの認知が広まったのかをメモしておく。
 まず第一にだが、選択的夫婦別姓が語られてきた際の90年代初頭あたりでは制度と共に戸籍の差別性について賛成派から戸籍の改善、廃止を語られる部分があったのは事実だ。例えば1993年に刊行された『夫婦別姓Q&A』には「最終的には、戸籍廃止という考えを持っていますか」という問いがあり、それに対して現行の戸籍は家族登録簿であるから戸籍の分解、個人登録化という考えが述べられている。また『「夫婦別姓」という挑戦 : 10年を記念して』(1995)では戸籍に関するアンケートの設問の中に「別姓導入時の望ましい戸籍」があるがその結果は別姓別戸籍18人、別姓同戸籍10人、個人籍109人、戸籍廃止2人となっている。この様に戸籍制度の変化、廃止という意見自体は存在する。ちなみに法務省の答申による選択的夫婦別姓による戸籍制度については「別姓同戸籍」に当たるといえる。果たして選択的夫婦別姓が導入されると「戸籍廃止」されるの「廃止」が文字通りの廃止なのか、家族籍から個人籍の導入についてなのか、別姓同戸籍までを廃止と捉えているのかは不明であるし、反対派の中でも濃淡があるのだろうが、いずれにせよ今想定されているであろう選択的夫婦別姓が導入されれば戸籍に変化が訪れること自体は確かだ。
 ではSNS上においてこの「戸籍廃止」認知が良く拡散する様になったのは何時だろうか。認知そのもので言えば2009年9月27日に読売新聞が「夫婦別姓導入へ…政府、来年にも民法改正案」という記事を出していたように当時この話題が存在し、ワイドショー(ミヤネ屋)でも触れた末に「戸籍廃止と繋がってる気がします。つまり特亜の日本乗っ取り計画の一環ですな」という反応が見られる。また反対に戸籍廃止賛成と思われる人物のブログとして「夫婦別姓、戸籍廃止と一緒にできないか」などがあるが、当時「戸籍廃止」に絡んで拡散した投稿は少ない。。また2010年以降で言えばRT数が3桁に届く程度の投稿も一年に一度あるかどうかくらいの割合で拡散される程度の投稿となっていた。

これらは現在の拡散に至る下地であると言えるが、これが変化し始めたのが2010年代後半からだ。外的要因としては2018年4月に自民党の総裁選に出馬した野田聖子が選択的夫婦別姓に賛成したり、6月には「選択的夫婦別氏法案」を5野党1会派で衆院に提出したなどの、実際の政治分野での動きが活発化したのが大きいだろう。そしてTwitter上では橋下徹が12月に行った戸籍廃止賛成の投稿が拡散する。


https://x.com/hashimoto_lo/status/1077199506054103046

橋下の主張はまず部落差別の解消のための戸籍廃止を訴えるものであり、そこから夫婦別姓も戸籍廃止をすれば実現するという論調のものだが、これが若干であるがバズる。またこの2018年ごろから橋本に比べれば拡散力は低いものの、当時維新の足立康史立憲案は戸籍廃止につながるという話を幾度かしている。橋本は戸籍廃止賛成派、足立は戸籍廃止否定派なので両者の立場は違うが、SNS上においてインフルエンサー的な政治関連アカウントの発言によってこの「戸籍廃止」という認知が広まって言っている様に見える。そして当時拡散している投稿)はどうにも橋本や維新関連の投稿が多い(下記は2020年頃までの1000RT以上の投稿をピックアップ)。


https://x.com/snt495/status/1136097289141772288


https://x.com/madaimeijin/status/1138403635551801344


https://x.com/nakamenagame/status/1273643441214246914

ちなみに維新関連以外では杉田水脈によるやじが問題となって報道され、それへの反応が拡散していたりもした。


https://x.com/itagakishika/status/1220598001615261696

なお1000RT以下も見ていくならばやはり2018年末頃からネット右派系アカウントによって「選択的夫婦別姓」と「戸籍廃止」を繋げた投稿の増加が見える。そしてこれがさらにエスカレーションして1000RTを超えるバズネタ的な投稿としてなったと言えるのは2024年からだ。例えばX上での検索において、「夫婦別姓 戸籍 廃止 or 破壊 min_retweets:1000」で検索してヒットする各年度の投稿は次の通りとなる。

2020年:1件
2022年:1件
2023年:1件
2024年:22件
2025年(7月まで):28件
※Xの検索条件において「min_retweets:1000」と検索しても必ずしも1000で足切りされるわけではない。そのため既述の維新関連で拡散した投稿は検索には出てこない。

2024年以降に何故ここまで「戸籍廃止」と直接的に繋げる投稿がバズる様になったかまでは不明だが、外的要因としては経団連サイボウズの青野社長の賛成、自民での動きだろう。また目立つのは右派系インフルエンサーの投稿も増え、そのうちの一人である「田舎暮しの唱悦@shoetsusato」は2024年に8回これ系の投稿をしてバズるなどをしている事から「定番」ネタになっている様に見える。


https://x.com/shoetsusato/status/1747532987837899087

元々を言えば選択的夫婦別姓の導入を望む運動の中には戸籍の廃止を含む論者がいたことは事実である。ただしそれが今現在賛成派の主流であるかは疑わしく、また先般の国会で議論された案は別姓同戸籍といえる。別姓同戸籍に対して賛成派からの戸籍廃止要望の声が大きいかと言われれば疑問符が付くレベルだ。そういった意味では選択的夫婦別姓を導入すれば「戸籍廃止」という表現そのものは拡大解釈の域といえる。ただその「解釈」そのものは2009年時の民主党以降、徐々に増えていき、戸籍賛成派として橋下徹が現れるなどによって徐々に認知が広がり、今現在では政治的課題として実現の可能性があり得ると感じ取った故の「危機感」もあってか、ネット右派系によるこの手のアジテーション活動が活発化している。実際とのころ選択的夫婦別姓が導入され、それが通称使用という枠組みでもないならば戸籍制度の変更自体は不可避なものであろうが、文字通りの「戸籍廃止」は現状のところ想定はされていない。とはいえ、彼らの中には「家族の一体感」的に戸籍に別の姓があること自体が「戸籍の破壊」なのかもしれないし、ドミノ理論的に夫婦別姓を導入すれば最終的に戸籍廃止が訪れるから反対するなど、反対の温度差は個々にあるだろう。ただいずれにしても現状の彼らの「解釈」はかなり飛躍的であり、デマの域ともいえる。
 最後におまけとして書いておくが、最近いくつか「選択的夫婦別姓」について反対派の方が多いという論調を見ることがある。過去には高校生は制度に反対が9割というデマの域といえる話題を扱ったが、調査の数字や設問などを恣意的に解釈する人が散見される。例えば制度への賛否を「YES/NO」の二択で選ぶ場合は現状では制度への賛成が多いのが常となっている。しかしここに「YES/通称使用/NO」という三択にするとYESの割合は減り、通称使用とNOを合わせて制度反対が多いという誘導を行う場合がある。この場合、「通称使用」が選択的夫婦別姓に賛成なのか反対なのかを分けることは困難だ。また別の「手法」としては制度への賛否とは別に、自分が結婚した時に同姓でいたいかという質問を抜き取ることもある。基本的な傾向として選択的夫婦別姓の「制度」には賛成するが個人の「選択」としては同姓が良いという割合は多い。こういった調査の恣意的な解釈は頂けない。
 個人的には選択的夫婦別姓世論調査によって賛成が上回ってそれなりに経っていることから制度そのものが実現するのは時間の問題だとは思っていたりするのだが(とはいえそれが何時かは不明)、最近の「戸籍廃止」などと合わせた反対派によるSNSなどにおけるアジテーションとそのバズを見ていると果たして実現するのか、ちょっと怪しく思えて来たりしている。



投げ銭用ページ note.com