電脳塵芥

四方山雑記

災害時の避難所の間仕切りとかの話

 

 というツイートを見たのでちょっと触発されたのでつらつらと。あ、それと基本的にツイートの趣旨(避難民が快適に生活をするために政府が動く)には反対の意は一切なく、進めるべきだと思います。反対する意味がないですし。

 さて、その前に上記のツイートの写真をもう少し詳しく。

 


 一枚目:2019年江原道山林火災時の小学校の避難所

     ※高城=news1(韓国語)が出典(4月4日に火災、記事は4月6日)

 二枚目:2018年のフィリピンへの台風時

     ※TIMEの記事が出典(事前避難とのこと)

 三枚目:2016年のイタリアの地震

     ※2018年のNHK記事が出典(災害からの日数不明)

 四枚目:現在の方は場所明記はないが、北海道胆振地震に関する記事なので該当災害の避難所だと考えられる

     ※2018年の報道プライムサンデーが出典(災害からの日数不明)


 

各々は以上の様な写真となります。

 

◆韓国について

 韓国については2017年に発生した浦項地震が一つの契機となったことが下記からもうかがえます。

11 月 18 日(地震発生 3 日目)からプライバシー保護と 防寒対策としてテント(写真 7)や間仕切り(写真 8),ス ポンジ材を設置して,家族が一つの空間で生活することができるようにした.テントは災害救援協会とテント製造会社から寄付されたもので,被害者が急増した 21 日には 458張が設置11) された

(略)

テント製造会社「(株)アイドジェン」は室内テント 400 張を寄贈して,避難所の防寒対策とプライバシー空間を提供した. これを契機に,行政安全部は,テント製造会社と災害救援業務協定を締結して,今後,災害の際にテントが全国的に支援できるように制度化した12).

韓国・浦項地震における避難所の運営実態調査

つまりは2017年以前にはそういった間仕切り、テントの様な体系的な支援がなかったものの、これを契機にテント製造会社と災害救援業務協定を締結、それが2019年においての災害で活かされた、と考えるのが妥当かなと。それと当然ながら災害即テント、というわけにはいかないようです。上記のテントも3日経過経過していますし、ある程度のタイムラグがあると考えた方が良いかと。江原道山林火災においても、発生直後の避難所の写真は日本でよくある体育館に雑魚寝の避難所は多く見受けられますし。また、どれくらいの被災者をカバーできる体制なのかは正直よくわかりません……。

 それ以前においては下記の中央日報の記事の様に間仕切り等はなかった、というよりもむしろ日本を参考にという意見もあったので、ツイッター上とはいえ面白い逆転現象ではあるかなと。

キム・ソンワン全南(チョンナム)大学精神科教授は「不明者家族が痛みを共にして情報を共有しようとする意は尊重すべきだが、今のようにストレスが激しい状況では私的空間がより重要だ」と話した。東日本大震災の当時、日本は共同生活空間に個別の災難救護用テントを支援した。

<韓国旅客船沈没>不潔なトイレに仕切りなし…不明者家族の劣悪な環境 | Joongang Ilbo | 中央日報 2014年04月30日

また、2017年当時の韓国の記事を見ると日中韓の避難所の写真を比べており、似たような問題意識を持っていたのかなと([사진현장] '도떼기시장' 같은 대피소, 이게 최선인가요? | 연합뉴스)。

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浦項市北区フンヘウプ興海室内体育館 2017-11-18の記事

 それと、これは余談だけれども2019年2月の記事においては未だに浦項地震の被災者が体育館でのテント暮らしをしている現状がある。韓国の被災者対応も当然ながら完ぺきではありません(『「いまだ体育館暮らし」…避難所で2度目の旧正月迎える浦項地震被災者(1) | Joongang Ilbo | 中央日報』)。

 余談その2。韓国の避難所を調べててもテントの画像だけ出てきて、内部状況が分からないんで何とも何ですが、ベッドがあるかどうかまでは分かりません。テント配備前ではなかったので支援体制としてはないような気もします。特に立方体系のテントではない普通の半円状のテント形式ですとベッドが中にあるのは考えられないので。

 

◆フィリピンについて

 フィリピンの写真に関しては『日本の避難所はフィリピンより劣るという話は印象操作、事実誤認、デマ - Togetter』というまとめにあるように上記の写真が通常の対応よりも良い例外的写真と捉えるのが良いかなと。また、『Marikina's modular tents, disaster response efforts earn praises | Philippine News Agency』という記事を見ると市政府が購入した500セットとなり、国としてというよりも市や市長による影響が大きいようです。

 まだまだ対応途上(災害においてはいつまでも対応途上ではあると思いますが)という感じではありますし、国レベルで上記の写真の様な対応をしているというのは認知に齟齬を生みかねないかなと。フィリピンの災害避難に関する良い日本語媒体が見つからないので、フィリピンについての記述はこれで終わりです。

 

◆イタリアについて

 イタリアには「市民安全省(翻訳者によって名称は異なります)」という防災専門の省が存在しており、

目的は「自然災害、大惨事およびその他災害事態によってもたらされる被害やそのリスクか ら生命の安全・財産・住居・環境の保護」

塩崎 賢明『《報告》イタリアの震災復興から学ぶもの

 というような災害に対応する省庁です。イタリアの避難所は体育館などではなく、テント(10人程度)で、そこには簡易ベッドも備えられているというのが一般的な様です。ただ、このテントがどこの所有かまでは上記論文には書いておらず、よくわからないところです。しかしながら、市民安全省という組織がある事を考慮すれば体系的な備えと支援があると考えるのが妥当でしょう。

  ただし、下記記事の様に上記のテントが必ずしも素早く全被災者へと対応できているかといえば、絶対とは言えないようです。ちなみに、下記記事の避難所は日本でも導入実績のある形式だったりします。

世界的に有名な建築家の坂茂さん(59)が18日、10月のイタリア中部地震の被災地、マルケ州カメリーノの避難所に紙筒と布を組み合わせた間仕切りを設置した。海外での実用は初めて。

伊避難所に間仕切り 建築家の坂茂さん - 読んで見フォト - 産経フォト

 とはいえ、イタリアはテント以外にも様々な災害対応をしており、大いに参考すべき国と言えるのではないかなと。 

 

◆日本について

 2019年3月の『建築ジャーナル』に以下の様な特集があったようです。

「やさしい避難所」

 もう我慢はやめよう。諦めるのもやめだ。自助、共助、公助なんて精神論も、ひとまず忘れよう。被災後12時間を目標にイタリアの避難所へ届く3つのもの。それはカンパンやアルファ米でも、冷えた弁当でも、古着でもない。避難者だからこそ、人間らしく温かい暮らしができるようトイレとキッチンカーとベッドがやってくる。あらかじめ避難所用資材はコンテナ化されて分散備蓄され、そのままヘリコプターやトラックで運ばれる仕組みだ。一方、日本の避難所は、国際的な避難民のための最低基準以下、体育館の固く冷たい床で雑魚寝が当たり前。災害時の被災者保護は国民の権利であり、国の責務だ。避難所とその後の住まいに求められるのは人権意識であり計画性ではないか。ことさら「防災」や「国土強靭化」が叫ばれる3月だからこそ、原点に立ち戻って考えてみたい。

2019年3月号 「やさしい避難所」/No.1288|建築ジャーナル

以上を見れば、日本の現状認識がどこにあるのかは分かりやすいかなと思います。やはり日本人の共通認識はいまだに「体育館で雑魚寝」かなと。これはスフィア基準以下と言われたりする事がありますし、そういう問題意識はメディアでも見る話題。

 ちなみに内閣府(防災担当)が書いた避難所運営ガイドラインにおいては、「チェックリスト 寝床の改善」で

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内閣府 避難所運営ガイドライン 寝床の改善

「間仕切りの確保」、「簡易ベッド」に触れているなど、意識としては改善の方向へとは向かっていることはうかがえます。また、これらの避難所の体制は自治体や避難先によってマチマチなのが実情かなと。

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グーグル画像検索 「熊本地震 避難所」

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グーグル画像検索 「西日本豪雨 避難所」

以上の様に仕切りがあったりなかったり、また仕切りについてはその使用が統一されておらず、布であったり段ボールであったりと様々です。画像にはテントは見受けられませんが、自治体によってはテント村の様な避難所も作っております。

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2011年4月6日 岩手県大船渡市 朝日新聞HPより

 これらを見てると日本って統一された避難所体勢がないのではと。たとえば、

 ・千葉市:一部の避難所に間仕切りを配備しました

 ・奈良県:~大規模災害に備えて~ 「避難所用間仕切りシステムの供給等に関する協定」を締結しました

以上の二つは同じような「間仕切り」の話ですが、千葉市はテント型、奈良県は紙管と布によって仕切る形式のものとなり、まったく別の形式の避難所となっています。他にも最近では段ボールベッド型(小さな段ボール工場が変えた避難所の光景 (1/6) - ITmedia ビジネスオンライン)の様に完全な間仕切り、というよりも段ボールベッドによる緩い間仕切りを作る場合もあります。自治体ごとによって避難所の間仕切り形式は大きく異なるのが実情な様です。これは政府が各自治体に避難所運営のかなりの部分を一任しているから統一された規格の様なものがないのではないかなと。

 日本も間仕切りなど、避難所の快適性向上の向きは出てきているけど、それでもやっぱり一般には雑魚寝的なイメージはまだあるし、それに雑魚寝避難所もなくなってはいないのもまた事実でしょう。故に政府として何らかのそういう支援、規格みたいなのはしっかりとあった方がいいかなという感想は抱きますが。自治体によっては個別には対応できない自治体とかあるでしょうし。

 

 

  つらつらと書いてきましたがオチは特にありません。発端のツイートに関しては、悪くとろうと思えば情報の取捨選択ってできるよねとかは思わなくもないですが。ただ、日本の写真はFNNというニュース記事の写真ですしね。

 このブログ記事はそういう話ではないですが、写真の威力って怖いですね。

 

 

新訂 公民館における災害対策ハンドブック

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建築ジャーナル 特集 やさしい避難所 2019年3月号(東日本版)

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