電脳塵芥

四方山雑記

竹島の話における「日本漁船拿捕と死傷者について」

 

嫌がらせ文化の国韓国が、竹島を不法占拠して以降、韓国側は竹島近海で操業する日本漁船に対して、銃撃や拿捕を繰り返し、韓国に拿捕された日本の漁船は328隻、 抑留された船員は3929人、死傷者は44人。 この事実を心に刻み、竹島奪還のあらゆる可能性を見出す決意!

 

 

 

 

 という国会議員によるツイートがあったわけです。さて、以下は手軽さからwikipediaからの引用。

1952年1月18日に韓国の李承晩大統領によって海洋主権宣言に基づく漁船立入禁止線(いわゆる李承晩ライン)がひかれ、竹島が韓国の支配下にあると一方的に宣言した。1952年のこの宣言から1965年(昭和40年)の日韓基本条約締結までに、韓国軍はライン越境を理由に日本漁船328隻を拿捕し、日本人44人を死傷(死亡者数は不明)させ、3,929人を抑留した[19]。韓国側からの海上保安庁巡視船への銃撃等の事件は15件におよび、16隻が攻撃された。

竹島 (島根県) - Wikipedia

 長尾議員は「竹島近海」とおっしゃっていますが、正しくは所謂「李承晩ライン」です。李承晩ラインって外務相HPの下記イメージの様に「竹島近海」などという言葉には括れないほどに広いわけです。

 

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外務相HP『「李承晩ライン」の設定と韓国による竹島の不法占拠』より

長尾議員が「李承晩ライン」を「竹島近海」というのはミスリードに当たるでしょう(フェイクと言っても良い)。とはいえ、wikipediaの「竹島」というページにこの情報があるだけに拿捕された漁民や死傷者数は「竹島近海」という認識を抱くのは考えられる理路ではあります。長尾議員がどこから情報を持ってきたかのは知りませんが。ちなみにツイッター内では44人「殺害」と言っている人もおりますが、44人「死傷/死亡者数不明」です。死亡者が44人ではないことに注意が必要です。さらにちなみに、この情報引用元は「竹島領有権問題について 自民党 領土に関する特別委員会」となり、更にこの情報は『日韓漁業対策運動史』が情報元です。なお、この『日韓漁業対策運動史』にも一部他資料と矛盾があると言われており、その内の死傷者数については後述します。あ、ちなみに自民党、日韓漁業対策運動史の方はちゃんと李承晩ラインです。

 

 

 では、これらの漁船拿捕や死傷者は「竹島近海」であったのか。以下、長いですが島根県HPにある「竹島問題を学ぶ会」の講演からの引用。 

 漁業問題で最も激しい論議が行われたのは東シナ海黄海とりわけ済州島近海の漁場についてでした。(中略)昨日、竹島問題研究会の杉原隆先生たちと一緒に島根半島の片江に行き、漁業者の方々から聞き取りをしました。(中略)昨日は竹島近海での漁業も話題になったのですが、漁業者の人たちは、その前には下関などに根拠地を持って東シナ海黄海に出漁したと話していました。日韓漁業問題の争点は、竹島周辺の海域ではありませんでした。竹島の経済価値は李承晩ラインで囲まれた水域の中では低かったのです。李承晩ライン内での日本漁船の漁獲高は水産庁編集の『水産業の現況 1956~1957年版』によりますと、1952(昭和27)年実績で年間約130億円です。一方竹島近海の漁獲高は、1965(昭和40)年頃に島根県が作成したと思われる『竹島の概況』では1年間に約1億円ですね。また、竹島近辺での韓国による日本漁船拿捕は、今確認されるところでは、起こっていません。

島根県 平成21年度竹島問題を学ぶ会  日韓会談と竹島問題

 さらには、

昭和27年に設定され、昭和40年の日韓漁業協定で消滅するまでの13年間に、李承晩ライン侵犯で拿捕された日本漁船は300隻以上で、抑留者も4000人近くに及んだのです。ただ、竹島周辺で拿捕されたわけではありません。

島根県 Web竹島問題研究所

杉原通信「郷土の歴史から学ぶ竹島問題」

 以上の様に共に当事者ともいえる島根県のHPからの引用ですが、共に竹島周辺での拿捕を否定しています。また拿捕された漁船は下記の様に対馬済州島付近の海域に出向いた漁船とされています。

 

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水産庁福岡漁業調整事務所編刊『以西トロール・機船底曳網漁業現況資料昭和29年末現在

李承晩ラインと日本漁船拿捕より

日韓基本条約が結ばれる前の1954年である事に留意してください。ただし、これ以降も済州島対馬の海域が多いと上記引用先で結論付けられています。

 

 以上の様に「竹島近海」では漁船拿捕は起こっておらず、それはまたつまり死傷者なども出ようがない状況となります。長尾議員のおっしゃるところの「竹島近海」が対馬済州島を含む広大な近海ならば話は別ですが、そんなわけはないので長尾議員のツイートは著しくミスリードを誘うフェイクツイートでしょう。もし竹島問題を扱うならば、このような事実誤認は控えるべきです。

 

【9月11日 書き直し】

森須論文の表で参照すべき場所が他にもあったため、それに合わせた追記にしました。特に韓国フリゲート艦の追突に関する見落としは私の重大な落ち度です。申し訳ありません。

 

 「死傷者44人」ですが、新聞記事等から被拿捕漁船の情報をまとめた森須和男『李ラインと日本船拿捕』を参照すると、資料によって死者の数にはかなりばらつきが存在します。森須がまとめた表を参照すれば死者は、

 ・銃撃:5人

 ・抑留:1人

 ・その他(理由未記載):2人

 ・船が座礁後に拿捕、上陸後に過労衰弱:1人

 ・韓国フリゲート艦の追突:21人 (発生回数は1回)

以上の様に合計30人となります。

 他には島根県竹島の日 条例制定10周年記念誌によれば「死者8人を出してします。」という記述があり、島根県としての公的な資料としては死者8人というのが死者数となります。この島根県資料に韓国フリゲート艦追突による死者数がなぜ入っていないのかまでは分かりませんが、これは追突による死者であり拿捕ではない、また別個に韓国に損害賠償請求を日本国として行ったなどの背景があるからかと思います。

 いずれにしても日本漁船拿捕関連の死亡者数については「8人*1」、韓国フリゲート艦を入れれば「30人」付近と考えるのが良いかと。

 

 

 漁船への銃撃、それによる死傷者や抑留について問題がないとは思いませんし、日韓会談の韓国側代表となった人間が後に「人質外交」と言っている事からも漁船拿捕には多分に政治的意図が含まれており、そこに批判すべきことはあるでしょう。しかし、事実誤認に基づいた批判はマイナスにこそなれプラスには一切なりません。こういう記事の様な無駄な手間が増えるだけです。記事は5分、10分では書けないんだ。

 

 

その他の参考文献

「李ライン」により拿捕、抑留されたA氏に聞く

 

 

 

竹島 ―もうひとつの日韓関係史 (中公新書)

竹島 ―もうひとつの日韓関係史 (中公新書)

 
竹島問題の起原:戦後日韓海洋紛争史

竹島問題の起原:戦後日韓海洋紛争史

 

 

*1:森須論文ですとフリゲート艦を除いて9人ですが、もしかしたら島根県のは座礁後の過労衰弱死した方を入れていないのかもしれません。