電脳塵芥

四方山雑記

ニュートン誌で「神武天皇と今上天皇は全く同じY染色体である」ことなんて立証されてないよ


https://twitter.com/Furuya_keiji/status/1500394514196103168

 神武天皇の実在性とか、その後に続く欠史八代、さらに言えばその後の記紀神話の中で天皇とされた人物、生み出された人物みたいな話になると泥沼なんで触れませんが、とりあえずは下記の部分についてだけでも。

神武天皇今上天皇は全く同じY染色体であることが、「ニュートン誌」染色体科学の点でも立証されている。近代の男女同権という価値観とは次元が異なる。

そんなわけない、の一言で済むんですが一応はこの手の言説であっても無から生まれてくることは中々ないのでこの話を見ていきます。たとえば類似のY染色体と雑誌ニュートンの組み合わせでは下記の様なツイートがあります。


https://twitter.com/takeuchikumiffy/status/1406217698514653188

これは男系社会だからこそ男系が維持されていただけであって、Y染色体云々は結果論にしか過ぎないとしか思えないのですが、それはともかくとしてここでは「別冊 ニュートン」という話が出ています。この「別冊ニュートン」とは2006年12月に刊行された『別冊ニュートン 性を決めるXとY 性染色体と「男と女のサイエンス』 であり竹内久美子が示しているのはp.56-57の以下の様なページです。

当然ながら神武天皇とはなんら関係ないページではあります。あえて言うならば男系の家系が続けばY染色体は変わらないといえる事が記述されており、そういう意味ではこの論調そのものは今の天皇家の男系堅持層の一部に存在する神武天皇Y染色体説と相性の良い記述ではあります。なお別冊ではなくニュートンの2006年2月号での類似の特集があり、こちらについての内容は「オレ的なアレ」というHPの「科学雑誌で皇位継承の話?」において紹介されています。また2006年5月に蔵琢也による『天皇の遺伝子 男にしか伝わらない神武天皇Y染色体』が刊行されている事から、このあたりの時期から神武天皇Y染色体話が書籍になるほど出回っている事が理解できます。
 さて、これだけだと類似ツイートである竹内久美子の一件があるだけで古屋圭司神武天皇ニュートン誌ツイートとの関連性はちょっと薄そうです。竹内久美子のツイートが一件だけなら、ですが……。


※いずれも画像部分は割愛。いずれも数百RT

以上の様に2021年5月末から7月頭までに合計4件の天皇(皇統)とニュートンを関連づけるツイートをしています。おそらく古屋はこれらのツイートや神武天皇Y染色体云々の諸情報に触れることで脳内伝言ゲームと化学反応で今回の様な「ニュートン誌でも立証」という意味不明なデマツイートをしたと考えられます。要は、

神武天皇は実在した」
    +
天皇は神武から今上まで万世一系
    +
「男系で繋いでいけばそのY染色体が遺伝(ニュートン誌)」
    ||
神武天皇今上天皇は全く同じY染色体であることが、「ニュートン誌」染色体科学の点でも立証」

という理路かなと。ちなみに天皇(皇統)の遺伝子とニュートン誌を関連付けるツイートは今回の件以外では竹内以外見当たりません。当然っちゃ当然ですが。
 虚構存在のY染色体金科玉条にするのは大変あほらしくはありますね。



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いうほど若者は低身長化してない


https://twitter.com/wildriverpeace/status/1494130907984568322

「若者の給料」と同様に、30年間伸びていない「若者男子の低身長」問題

 さて、この著者に関する記事は以前「10代の身長が低下しているという話について」というものを書き、今回の件についても大方問題点は変わりません。まず、若者の身長がすこし低くなっているというのは本当ですが、この著者の記事は正直データの出典元やグラフの仕様の仕方が駄目なんで今回も一応書いておきます。

低身長化はしてるけどデータが恣意的

 令和2年度学校保健統計調査から男子学生の平均身長を見てみると以下の様になります。

このグラフを見ればわかる様に17歳男の身長は昭和60年度あたり、つまりは35年以上前くらいから170cm近辺で落ち着いています。当然ながら平均身長が青天井に伸び続けるということはなく日本人の栄養状態が十分になっていれば身長はこのあたりで落ち着くという事でしょう。そして17歳男性の平均身長が一番高かった時期は170.9㎝であり、そして令和2年度の平均身長は170.7㎝。たしかに低くはなっていますが、これをもってして

日本人男性の平均身長は、明治時代から100年間で約15cmも伸びた。しかし、その身長の伸びが近年止まってしまったどころか、逆に若干低身長化の傾向にあるという事実をご存じだろうか?

というように「低身長化の傾向」と言えるかと言えば甚だ微妙なところ。そしてその後に以下の様な事を記述しています。特にここが問題。

2019年時点において、20歳以上の男性の平均身長は、167.7cmにすぎない。平均が170cmにも達していないのが事実である(2019年厚労省国民健康・栄養調査」より。2020年はコロナ禍のため調査自体不実施)。
「20歳以上の平均にしたら、中年や高齢者も含むのだから、それは低くなって当然でしょ。若い人だけに限定したらもっと高いでしょ」と思われるかもしれない。しかし、同調査によれば、20歳男性の平均も170.2cm、21歳の平均にいたっては168.7cmしかないのである。

令和元年国民健康・栄養調査報告の「第 2 部 身体状況調査の結果」がデータの出典ですが、そこには以下の様なデータが記述されています。

    人数 身長平均値
17歳 14 171.5
18歳 19 171.1
19歳 16 170.4
20歳 12 170.2
21歳 11 168.7
22歳 26 172.3
23歳 16 171.6
24歳 12 172.7
25歳  5 171.3

以上を見ればわかる様に20歳男性の平均170.2㎝とは12人という人数の平均であり、21歳男性の平均は11人の平均です。流石にこれでは平均値を求める為のサンプル数が少ないと思わざるを得ない。よしんばこの数値を採用するならば17歳、18歳の171㎝台も採用しなければならず、だのにそれを無視しているのははっきりいってこの著者がデータを自身の言説の為に恣意的に利用しているとしか思えません。このデータを使用する際にこの人数の値を無視するのは不可能に近く、それを無視した論を書くのは著者はおかしい。
 その他にも、

18-19歳の男子の身長は、40代の中年おじさんよりも低くなっているのである。

とありますが、ただ学校保健統計調査では40~49歳が学生であったであろうころの17歳身長は今の17歳身長とさして変わりません。それを考えるとこれもサンプル数からの平均問題、18、19歳からも少なからず身長が伸びる場合も考えられますので、正直鵜呑みにするには微妙。
 事程左様に若者の低身長化そのものは「嘘」の類ではなくほんの少しミリ単位で下がっていることは事実です。ただしそのために使用するデータ、そしてそれを用いたグラフの作成と記事への使用に問題があると言わざるを得ない。結論や扇情的な記事にするためにデータを使っているとしか思えず、何はなくともこの著者は信用が置けない。

※もっと詳細に見ようと思えば、学生の身長推移で低身長層、高身長層の推移とかを見ていくと面白いかもしれませんが、そこまでコストをかけたくはないのでこの記事では扱いません。



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【デマ】アジア諸国の首脳が太平洋戦争における日本の功績を認めているといういくつかの「名言」は存在しない - スカルノ編

 名言?調査スカルノ編です。ネットで流布している発言には細かなところが違う亜種がいくつか存在するので下記に引用する発言は該当ツイートの画像の文言とは異なります。そこだけは悪しからず。

ネルー編

出典はどこか

インドネシア独立戦争では、3000名の日本兵インドネシア独立の為に戦ってくれました。インドネシアの独立で通じ合った日本の犠牲的精神を今の日本の若い人達は、ほとんど知りません。残念でたまりません。私達の独立の為に戦ってくれた日本兵の事をきちんと日本で語り継いでほしいと思います。そして、インドネシアへ来られたら、ジャカルタの英雄墓地に眠る日本兵奥城にお参りして下さい。その墓標には、みなイスラムの名前と日本人の名前が彫られています。

 まず「スカルノ」のこの発言もネルー発言と同じく書籍では見当たらない胡乱な発言です。勿論、それは私の見た書籍の範囲となりますが、少なくともこの発言が主に出回っているのは第二次世界大戦有識者の名言集やインドネシアと日本の関係について書かれた個人ブログなどが主です。ではこの発言がいつ頃出始めたのかというと2010年のブログ「本当の日本の歴史」による2010/12/12「インドネシア解放の為に戦った「日本軍神」」(現在削除済み。インターネットアーカイブより)で該当発言が書き込まれていることが分かります。ただしこの記事が初出というわけではなく2chの「★☆★世界史板雑談スレ★☆★」の2010/11/21の書き込みで同ブログの「インドネシア人からの日本への感謝の言葉」という記事?のコピペが貼られているために、現在遡れるこの発言の出どころは2010年11月ごろとなります。なお該当記事はインターネットアーカイブからも見る事ができないためにどの様な記事であったかは不明ですが、ただ少なくとも12月の記事を見る限りは出典が書いてある系統の記事ではないことが伺えます。またスカルノのこの発言は2011年ごろに複数のブログで書き込みが見られ*1、2010年下半期から2011年上半期ごろに流布したものであることが類推は可能です。

発言の元ネタ

 さて、この発言ですが元ネタが存在します。でもそれはスカルノの発言ではありません。まずネットにおけるこの元ネタ発言の初出は「クンユアム第二次大戦戦争博物館」です。このHPは元日泰平和財団理事長のタイ人チューチャイ・チョムタワット氏とそのHP管理人武田浩一によるHPであり、2004年ごろには開設していたHPです。その中に「歴史の一頁」があり、そこにはプラモード氏の発言をはじめとした各国の所謂名言集的な項目があります*2。そこに件の発言ありますが、その発言主はイドリスノ・マジットというイスラム教団特派記者であり、スカルノではありません。そしてそこに記述されている出典とは「インドネシア福祉友の会 NO.183 月報 1997年7月号 ―福祉友の会・200号「月報」抜粋集―より」です。ちなみにインターネットアーカイブで遡る限りは少なくとも2008年10月ごろにこの記事が引用されており、この発言がスカルノの発言になって流布されたのは最低でも2008年の10月以降であることがわかります。
 この「福祉友の会」という団体は戦争後にインドネシアに駐留し、敗戦後も独立戦争を戦った残留日本兵やその子孫らで組織された団体であり、元々はその団体による月報が元ネタです。その経緯からアジア解放史観との距離感が近い団体であり、月報抜粋集をみるとそれが色濃く出ています。そして件の発言の原資料は以下の様なものです。

日本はアジア解放の戦いを語り継ぐべきだ
 インドネシア独立戦争では、約3,000名の日本兵インドネシアのために戦ってくれました。その日本兵たちはインドネシアの基本をなすイスラム文化と宗教を大切にしてくれました。日本とインドネシアの間では、スカルノ前大統領の言葉のように、「ダリハティカハティ」です。「ハートツウハート」です。「心から心」です。インドネシアの独立を挟んで「心」が通ったのです。私たちはその「心」を大切にし、同じアジアの民族として伝えなければなりません。その「心」は日本とアジアばかりではなく、世界の平和にもつながるのです。
 ところが、インドネシアの独立で通じ合った日本の犠牲的精神を、今の日本の若い人たちはほとんど知りません。残念でたまりません。
 私たちの独立のために戦ってくれた日本兵のことを、きちんと日本で語り継いでほしいと思います。そしてインドネシアに来られたら、ジャカルタの英雄墓地に眠る日本兵奥城(オッキ)にお詣りして下さい。その墓標には、みなイスラ ムの名前と日本人の名前が彫られています。

「独立は一民族のものならず、全人類のものなり」(1958年2月15日、東京にてスカルノ大統領、東京都港区青松寺境内の碑)
 私たちも日本訪問のときは、九段の靖国神社にお詣りいたします。
 日本の天皇陛下は世界平和と民族のため、日々お祈りを捧げていると漏れ聞いております。そのことは、本当に素晴らしいことです。私たちイスラム教徒も日々、神に世界の平和を祈っております。その祈りの心は共通しています。
 私の個人的な歴史観ですが、近代史においては、1776年(7月4日独立記念日)イギリスの植民地からのアメリカ独立戦争、1789-99年(7月14日パリ祭)のフランスで起こったブルジョア革命と共に、欧米人によるアジア・アフリカの植民 地解放を目指した今世紀の大東亜戦争が、世界史における三大戦争であることを明記すべきであると思っています。
インドネシア独立戦争に参加した「帰らなかった日本兵」、一千名の声 -福祉友の会・200号「月報」抜粋集- p.318より

太字で強調した部分がスカルノの発言だとして流用されている事が分かります。なぜこの発言を選び、それをスカルノの発言と捏造したのかまでは不明ですが、少なくとも誰だかわからない記者よりもスカルノというネームバリューで箔をつけたという所でしょう。なおスカルノの発言として扱われる際に「心」のくだりも入っている場合もあり、この様な複数バージョンの存在からもしかしたら元ネタからの改ざんは何回かされている可能性もあります。それとイドリスノ氏は3000名の日本兵インドネシアの為に戦ったと記述していますが、この著作が「一千名の声」と示す様に福祉友の会の抜粋集ではその冒頭に”軍属・民間人を含む「帰らなかった日本兵」一千名が、その独立戦争を共に戦ったのです。(抜粋集 p.vii)”とあるように3000名というのは誤っています。なお、何故かこの3000名は冒頭の画像にある様に2000名になる時もあり、よく数字がぶれる箇所です。

映画『ムルデカ17805』

 以上みてきたようにこのスカルノ発言は捏造です。そして最後に少し脇道ですが調べててこのスカルノ発言と併せて「ムルデカ17805」という映画を紹介しているブログがいくつかありました*3。ムルデカ17805とは2001年公開の日本の戦争映画でインドネシア独立戦争に関わった日本兵を描いているものです。要はスカルノほかの「名言」ととても食い合わせの良い映画であることから併せて紹介されているのでしょうが*4、実はこの映画、駐日インドネシア大使らから以下の様な苦言を呈されています。

映画「ムルデカ」にクレーム
駐日インドネシア大使「歴史に反し、国民の威信落とす」
制作者、一部シーンをカット
(中略)
シャハリ・サキディン在日インドネシア大使館参事官の話
 制作会社に手紙を送り、インドネシア人の感情を傷つけると思われる部分の削除を要請した。インドネシア上映の予定もあるので、良好な日本とインドネシアの関係にヒビが入ることを避けるためだ。
 一番の問題の箇所は、島崎武夫中尉がジャワ島に上陸する時、ジャワ人の老女が中尉の足に口づけをするシーン。ジャワでは結婚式の時、新婦が新郎の足を洗う儀式はあるが、口づけなどしない。そんな習慣はない。夫婦だったら足に口づけしてもいいが、映画では侵略者の足にインドネシア人が口づけしている。そんな歴史はない。インドネシア人はこのシーンを見て怒りを感じるだろう。だからこのシーンの削除を要請した。
両国にある繊細な問題をセンセーショナルに描き出す必要はない。ムルデカは作り手の主観の入ったロマンスでありフィクションだから、映画全体については見た人が評価すればいい。
 しかし、この映画の試写を見たインドネシア人たちは「まるで日本がインドネシアの独立を勝ち取ったみたいに描かれている。行き過ぎだ」と言っていた。映画で描かれている日本人のヒロイズムはインドネシア人には理解が難しいものだろう
じゃかるた新聞 2001年3月16日

スカルノ発言は捏造なのでそもそも論外ですが、それを置いといたとしてもアジア解放史観を対外的、そして当事者に発信することは危険であることが分かります。日本のネット上ではしゃぐ程度であっても認識をそちらに寄せると痛い目を見る可能性はありますし、気持ちよい文言ばっかり見てると歪むし、リスクですらある。



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*1:その1(2011/7/6)その2(2011/5/6)その3(2011/3/27)

*2:2018年ごろにできたであろう「歴史探訪」というHPを見るとネルーの発言をこの博物館を出典にして記述しています。しかしながら博物館HPにはネルーの発言はないために「歴史探訪」の誤り。出典HPにない発言を載せており悪質……。

*3:その1その2

*4:当然ながらこの映画にスカルノの名言は出てきません。

【デマ】アジア諸国の首脳が太平洋戦争における日本の功績を認めているといういくつかの「名言」は存在しない - ネルー編


https://twitter.com/IJza1MaI3JwSIfe/status/1486809760829952002

 というツイートが少しバズっていたので、ちょっとこれらの発言について。これらの「名言集」の様なものはこのツイート以外にも氾濫しており、中には本当の発言もある事は事実でしょう。とはいえそれらが全て事実かというと……、と結論みたいな事をもう書きましたがそれぞれの発言を見ていきます。この3つの発言を全て一つの記事にするとかなり膨大になってしまうのでまずはインド初代首相ネルーの発言から見ていきます。
 なお、それぞれの発言には細かなところが違う亜種がいくつか存在するので下記に引用する発言は該当ツイートの画像の文言とは異なります。そこだけは悪しからず。
 ではまずジャワハルラール・ネルー(インド初代首相)の発言から見ていきます。

スカルノ編

発言の出典はどこか

彼ら(日本)は、謝罪を必要とすることなど、我々にはしていない。それ故、インドはサンフランシスコ講和会議には参加しない。 講和条約にも調印しない。(1952年日印平和条約締結)

 結論から書くとこの発言は出典、初出が見当たりません。まず現在ネット上において確認可能なおらそらく一番古い該当発言は2007/10/30におけるニコニコ動画第二次大戦 名言集 (日本編)」です。ただしこの動画は要は発言の「まとめ動画」であることから出典元はどこかにある事は確実であり、またこの動画アップロード主が創作した可能性は限りなく低いです。そしてそれ以後にネット上で確認できる同様の発言は、2007/12/13の以下のブログ記事のコメント。

最後にサンフランスシスコ講和会議でのインドのネール首相の言葉で締めたいと思います。
「彼ら(日本)は謝罪を必要とすることなど我々にはしていない、それゆえにサンフランシスコ講和会議に参加しない、講和条約にも調印しない」

講和会議にはインドは参加していないために「サンフランシスコ講和会議での~」はあり得ません。ただこの発言主はこの発言のソースを以下のように語っています。

ネ-ル首相の言葉ですが、私が最初に知ったのは確か小林よりのり(ママ)さんの書籍だったと思います。
ネット上に具体的なソースはありませんでした。
※この後に上述のニコニコ動画を貼る

ソースとして小林よしのりをあげています。氏の著作は多くある為にすべてを確認出来てはいませんが、該当部分がありそうな戦争論1~3、パール真論などを読んでも該当発言は見当たりませんでした。見逃し、また他の著作にある可能性も否定できませんが、小林よしのりが初出の可能性は微妙です。
 またこのネルー発言はパール判事と絡めてされることも幾度かあり、例えば武田邦彦のブログ(2009/9/29 )ではその傾向が見受けられます。

ネール首相は,自己の信念を曲げないパール判事に困惑し,「パール判事の意見書はあくまで一判事の個人的見解であり、インド政府としては同意できない箇所が多々ある」と言ったと言われる(本心かどうか不明).その後,1950年代になって日本が独立することになりサンフランシスコ講和条約を結ぶ段になると,インドは参加しない.その時,ネール首相は次のように言っている。(該当発言)
http://takedanet.com/archives/1013800325.html

パール判事に関しては武田氏以外にも2ch自体のコピペ書き込みで触れているものも存在。パール判事本に関しては田中正明『パール博士の日本無罪論』(その後の文庫版などでは「パール判事」)が有名であり、出典元となっている可能性があるかもと読みましたがこちらにも該当発言はありませんでした。またFacebookの書き込みでは名越二荒之助編「世界から見た大東亜戦争」に記述されているともとれる書き込みがありましたがこちらにも該当発言は存在しません。

インドの国会演説で発言か?

 現在のwikipedia(2020/2/5時点)の「インド>日本との関係」には該当発言は記述されていませんが「2008年4月21日 (月) 19:27時点における版」から該当発言が追加されています。これは「2011年9月13日 (火) 17:20時点における版」に[要出典]が追加され、やはりこの発言の出典は分らぬままだった模様で、その後に削除に至っています。なお「2009年4月1日 (水) 05:41時点における版」では以下の様な文言が追加されています。

1951年のサンフランシスコ講和条約には欠席し、これについて国会演説においてインド初代首相ネールは(以下略)

ネルーのものとされる発言は例えば今回の画像の様に「日本は、われわれに~」というバージョンもありますが、出典を探っていくと「彼ら(日本)は~」が元であることが伺えます。「彼ら(日本)」という発言を考えれば少なくとも日本の誰かに対しての発言ではなく、wikipediaにあるような国会演説における発言という線は考えられるでしょう。では、その国会とは何時でありその内容はなんであったのかは中村麗衣『日印平和条約とインド外交』で紹介されています。

ネルーは1951年8月27日のインド議会で、対日講和に対するインド政府の態度を正式に発表した。およそ10分間の短いスピーチであった。そこでネルーは、対日戦は6年前に終結した、これに引き続いて日本の軍事的占領が行われ、今日まで続いている、インドは他の諸国と同じくこの不満足な状態を平和条約によって終結させることに関心を持っている、しかしこの問題の解決法に対する見解が各国によって異なるため対日平和問題はほとんど進展を見ず、米英両国政府はこのため対日平和条約に関し主導的立場をとることになった、インド政府は米英案に対する提案を行ったが何一つ取り入れられなかったためインドは平和条約に調印すべきでなく、またサンフランシスコ平和会議にも参加すべきでないとの結論に達したと述べた。さらにこの考慮の結果、インドは日本が独立の状態に達し次第インドと日本との間の戦争状態終結を宣言し、のちに簡単な対日単独講和を締結すべきことを決定したと宣言した。

つまりここではインド側の提案が米英に受け入れられなかったために講和会議への出席を拒否するというものであり、「謝罪をする必要とすることなど、我々にはしていない」という様な趣旨の発言ではないことが理解できます。なおこの時のインド側の提案、懸念を恵原義之は以下の様にまとめています。

インドは連合国側に対して、講和条約案で「日本の主権が侵害されている」との理由で出席拒否を通告しました。特に沖縄、小笠原諸島アメリカによる信託統治に反対を表明します。また日本に対しても東側諸国の講和会議参加の障害となっているとして千島列島と南樺太ソ連への帰属を認めるようにも主張しています。もう一点注目すべきは、占領下にある日本とアメリカとの間の安全保障条約締結の合法性についてもインドは疑念を表明
日印国交60周年を考える

また日経新聞の「踏み絵の講和会議を避けたインド」などからも当時のインドの考えが伺えられ、講和条約への参加拒否は米ソ冷戦も念頭に置く必要があるでしょう。

インドの資料ではどうか

 さて、以上は日本語圏での話ですが、ここからはインド側の資料からの話。ネルーの発言などはインドにおいてもまとめられており、それは「Selected works of Jawaharlal Nehru」で確認が可能です。そして1951年8月27日の国会演説も「Vol. 16 | July 1951 - October 1951 | Part.2」のp.617-620でまとめられています。

※自動翻訳

1951年8月12日、インド政府はアメリカ政府からのコメントに対する返答を受け取った。原案には若干の変更が加えられていたが、インド政府が提示した主要な提案は何一つ受け入れら れなかった。そこで政府は慎重に検討した結果、インドは平和条約に調印せず、サンフランシスコ会議に も参加すべきではないとの結論に至った。さらに、日本が独立した後、直ちにインド政府が日印戦争状態終結宣言を行い、その後、日本との単純な二国間条約を交渉することにしたのである。

今回の発言に関わる部分で言えばここが重要となる箇所でしょう。中村が論じている様に米英案への提案が取り入れられなかっためにインドは講和会議への参加を見送ったとみて良く、つまりは「彼ら(日本)は、謝罪を必要とすることなど、我々にはしていない」からインドが講和会議をボイコットしたのではなく、単純に米英案が受け入れられないからボイコットをしたと考えるべきです。
 またこの資料内の他の参照箇所、例えば1951年8月28日に行われたプレスカンファレンスでのやり取り(p.253~259)での質疑応答では該当発言に類する言葉は見当たりません。さらに1951年6月24日の「To Thakin Nut(p.604~606)では賠償金について以下のように語っています。

※自動翻訳

日本の平和条約に関する限り、ビルマの補償または賠償の請求が非常に強いという点については、私もまったく同意見です。イギリスとアメリカから受け取った草稿に対する私たちの予備的な反応では、当然、私たち自身の観点から賠償の問題を考えていました。私たちはインドを代表してそのような賠償を要求すべきではないという結論に達しました。それは日本がインドに与えた損害が比較的小さかったからです。また,過去のヨーロッパにおける賠償の歴史を見ても,約束をしても実現することは難しいという事実がありました。第一次世界大戦後、ドイツには莫大な賠償金が課された。しかし、実際にはほとんど支払われておらず、最終的にはヒトラーがこれを破棄した。苛立ちの種にしかならなかった。 このように,賠償金を強調しても経済的には何の意味もなく,インドでは特に影響を受けなかったと思います。実際,私たちはインド北東部の人々に4万から5万ルピーの戦争賠償金を自費で支払っています。これらの損害は、一部は日本軍によって、一部は英米軍によってもたらされたものです。
そのため、イギリスとアメリカに対する平和条約に関する回答では、賠償金について強調せず、私たちに関する限り、賠償金を要求することはないと述べました。しかし、ビルマの場合は事情が異なり、ビルマは非常に大きな被害を受けたことを私は理解しています。したがって、ビルマには賠償を要求するあらゆる権利と正当性があります。

つまりはインドが賠償金を請求しないのはその被害の小ささからであり、これは件の発言の「われわれに謝罪しなけれならないことは何もしていない」という部分と矛盾しています。またこれに続く6月27日の手紙では” So far as we are concerned, we shall be happy indeed if you can get reparations from Japan. ”(p.606)とも書いている事からネルーはそれが現実的に可能や危惧がなければ日本へ賠償金を請求していた可能性はあるでしょう。長くなるので引用はここら辺で終わりにしておきますが、サンフランシスコ講和会議に対するネルーの国会での演説の前後にある各種書簡からも該当発言がない事を裏付ける発言がありますので、インド側の資料から見ても件の発言はあり得ない可能性が高いです。

日印平和条約締結

 このネルーのものとされる発言の末尾に”(1952年日印平和条約締結)”という文言が付く場合があります。この日印平和条約においてインドは日本に対して賠償を請求しない事となり、その際に当時の岡崎勝夫外相は「この条約には日本に対する友好と好意の精神が貫かれており、一切の賠償要求を放棄して、インドにある日本資産を返還するという条項は、特にその好例である」(中村論文を参照)と述べたとあり、これらの情報が流れていきネルーの真偽不明発言へと繋がっていった可能性はあるかもしれません。ただ佐藤宏が『日印戦後処理の一側面 -在印日本資産と在日インド資産の返還交渉-』で指摘するように資産、補償の話は条約締結後7年ほど経過してから解決を迎えるわけであり、額面通りに賠償請求が一切なしだったわけではないことに留意は必要です。
 以上みてきたようにネルーのものとされる発言は限りなく嘘、デマの類と言えるでしょう。ネット上の初出、というかネット上でしか現在確認できない言葉であり、その発生元は今は削除された個人HP、ブログ、掲示板の何れかであろうことが予想できます。いずれにしてももはや探る事が著しく難しい案件です。「ない」ことを証明することは難しいですが、むしろ出典が全然見当たらない現状においては「ある」ことを証明していただきたい。

おまけ

日露戦争に対する勝利への発言
 ネルーの発言として日露戦争における日本の勝利を喜んだ例を持ち出してくることがあります。例えば「記念艦「三笠」HP」のキッズページ諸外国への影響では以下のように引用。

「日本は勝ち、大国の列に加わる望みを遂げた。アジアの一国である日本の勝利は、アジア全ての国々に大きな影響をあたえた。私は少年時代(当時ネルーは17歳)どんなにそれに感激したかをおまえに良く話したことがあったものだ。たくさんのアジアの少年、少女、そして大人が同じ感激を経験した。ヨーロッパの一大強国は敗れた。だとすれば、アジアは、昔、たびたびそういうことがあったように、今でもヨーロッパを打ち破ることもできるはずだ。」

これはネルーの「父が子に語る世界歴史4」からの引用*1ですが、当然この後には続きがあります。それは以下の様なもの。

1932年12月30日
日本のロシアに対する勝利がどれほどアジアの植民をよろこばせ、こおどりさせたかを、われわれはみた。ところが、その直後の成果は、少数の侵略的帝国主義諸国のグループに、もう一国をつけくわえたというにすぎなかった。そのにがい結果を、まず最初になめたのは、朝鮮であった。日本の勃興は、朝鮮の没落を意味した。
(中略)
もちろん、日本はくりかえして中国の領土保全と、朝鮮の独立の尊重を宣言した。帝国主義国というものは、相手のもちものをはぎとりながら、平気で善意の保証をしたり、人殺しをしながら生命の尊厳を公言したりするやり方の常習者なのだ。
(中略)
日本は帝国としての政策を遂行するにあたって、まったく恥を知らなかった。ヴェールでつつんでごまかすこともせずに、おおっぴらに漁りまわった。
(中略)
日本はいくらかの近代的改革をもちんだが、容赦なく朝鮮人民の精神をじゅうりんした。長いあいだ独立のための抗争はつづけられ、それは、いくたびも爆発をみた。なかでも重要なのは、1919年の蜂起であった。朝鮮人民ー特に青年男女ーは、優勢な敵に抗して勇敢にたたかった。自由獲得のためにたたかう、ある朝鮮人団体が正式に独立を宣言し、日本人に反抗したばあいなどは、かれらはただちに警察に密告され、その行動を逐一通報されてしまった! かれらはこうして、かれらの理想に殉じたのだ。日本人による朝鮮人の抑圧は、歴史のなかでもまことにいたましい、暗黒の一章だ。
「父が子に語る世界歴史4」 p181-182

日露戦争への勝利に対する感情よりもその後の日本の行為に対しての文章量が圧倒的に多いです。これは1932年に書かれたことからも当時のネルーやインドの置かれた状況に対してどこに感情を移入しているかを考えれば当然と言えるでしょう。ともかく、ネルー日露戦争勝利に関する件を名言扱いみたいなことをするのは都合のよい切り取りです。

■1957年5月24日でのネルー発言について
 現在、インドネルーwikipediaには以下の様な発言が記述されています。

1957年5月24日、インドを訪問した岸信介首相を歓迎する国民大会が開催され、3万人の群衆の中、ジャワハルラール・ネルーは、日露戦争における日本の勝利がいかにインドの独立運動に深い影響を与えたかを語ったうえで、「インドは敢えてサンフランシスコ条約に参加しなかった。そして日本に対する賠償の権利を放棄した。これは、インドが金銭的要求よりも友情に重きを置くからにほかならない」と演説した。

これは出典を見ると江崎道朗『マスコミが報じないトランプ台頭の秘密』(2016)で、該当箇所はグーグルブックスで確認可能です。で、この発言も「Selected works of Jawaharlal Nehru」のvol.38(p.737-739)で確認可能です。実際に江崎道郎が引用した箇所に近い発言はしているので若干のニュアンスの違いはあるもののこの発言はほぼほぼ事実です。

※以下は自動翻訳による

ご存知のように、何年か前にサンフランシスコで、いくつかの国が日本と平和条約を結びました。インドは、この条約が日本の主権を抑制する傾向にあるとして、調印を拒否しました。その後、インドは日本との間で平等な条件で別の条約を結びました。そして、先の大戦後、日本がインドに支払わなければならなかった賠償金の問題がありました。インドはお金よりも友好を重んじたので、賠償金の支払いを免除しました。

日本の首相が共にいる場で表立った批判もするわけないという考えも出来ますが。なお、例えば演説中には"Japan misused this power to some extent and invaded neighbouring countries and, as you know, Japanese forces reached up to the borders of India in Assam. "という様な日本による侵略性を示す発言自体もしています。ただ、この当時のインド(というかネルー)が経済的に成功を収めてきた日本に対して所謂「親日」的態度を示している事が分かります。とはいえ、嘘ではないのでもしも名言として引用するならばこっちかなとも。
 実はここらへんが元ネタだったりする可能性も無きにしも非ずかも。



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*1:なぜか私が印刷した該当本の記述と若干細部が異なりますが……

【デマ】帯広市において、「中国人は市営住宅を占拠してない」


https://twitter.com/jda1BekUDve1ccx/status/1479714395391688706

 北海道はデマが多く、例えば過去には「【デマ】「北海道へ中国人500万人移住計画」について - 電脳塵芥」とか書きました。それはひとまず置いておくとして。まず生活保護に関しては帯広市HPが「中国国籍の方の生活保護に関するインターネット上の情報について」というページをわざわざ作って否定しています。以下、引用。

帯広市における中国国籍の方の生活保護について、インターネット上で「帯広市に中国人が大量に流入生活保護を受けている」「帯広市で中国人が生活保護を不正受給している」などの情報が拡散されていることを確認しています。
 帯広市において中国国籍の方の生活保護の受給状況は下記に示すとおりですが、「大量に流入」という状況ではありません。また、生活保護の不正受給は認められるものではありませんので、国籍を問わず確認次第、必要な対処を行っております。

2020年6月時点で8人の生活保護者、コロナ禍の影響を考えてもそこまでの変動はないでしょう。

市営住宅について

 「生活保護」ネタ自体は残念ながらわりとありふれてるものですが、市営住宅ネタは珍しいです。これに関してはおととしに少しだけバズったツイートがあり、加藤氏のはそれらを受けてのものと推測できます。


https://twitter.com/0iZMB88ikrvxs0N/status/1326812647208017926

また2022年1月8日にもう一度この方はツイート。


https://twitter.com/0iZMB88ikrvxs0N/status/1479618026484137989

まず画像や左上の時報や右上のスーパーを見ると帯広市についてのなんかしらのテレビ放送だということが伺えます。そしてこの番組には当然続きがあり、それは以下の様なもの。

まずこのツイートは2020年11月、まとめサイトでも話題のこぐま速報ハム速も11月に記事にしている事からこの時期に拡散されたことが分かります。ただしこぐま速報のツイートを見る限りは2020年5月に話題が広まっている事がわかります。そして当時のツイートは以下のもの。


※現在削除済み。アーカイブ

またキャプチャ画像で「北海道議会議員 小野寺秀」とありますが小野寺氏は2015年の北海道議員選挙に出馬せずに引退しているために現在キャプションをつけるなら「元議員」になる事から2015年以前のものとなるはずです。そして探っていくとこの番組は2011年1月9日に放映されたフジテレビの新報道2001の特集「中国マネー襲来 日本の国土を守れ!第5弾」であることがわかり、当時の番組説明には以下の様に紹介されています。

北海道・帯広市では中国人の生活者が年々増加する中、所得税や住民税を払わない中国人が生活保護を受けており、中国人の5人に1人が市営住宅に住んでいる。

youtubeでは当時の番組がアップロードされていますのでそれをたまたま2020年に見たのか、若しくは思い出して調べたのか知りませんが、相当の時間差で該当番組のツイートを2020年にしている事が分かります。なおこのネタ自体は2021年1月にも拡散されており、2020年あたりをきっかけに一つの使えるネタと化していることが伺えます。


https://twitter.com/mishiru2013/status/1351981660623888386

上記の引用先のツイート(現在削除済み)

アーカイブ

 さて、ここで小野寺氏が番組中に言っている事ですが、帯広で生活保護を受けている人間は3%、帯広在住の中国人の生活保護率8%自体は2020年6月の調査とほぼほぼ変わりません。そして市営住宅への中国人の入居率ですが、こちらは帯広市に問い合わせをして以下の様な回答をいただきました。

帯広市からの回答(電話)】
帯広市市営住宅の総戸数は2858
・そのうち、現在の入居者数は2507
・中国国籍の方による占拠の事実はない
※数は令和3年3月31日現在

中国国籍の入居者数自体の数は教えてもらえませんでしたが、明確に「占拠」の事実は否定しています。ただ小野寺まさる氏のキャプチャ画像のホワイトボードを見る限り、2011年現在で帯広市在住の中国国籍の人間は103人、そのうち市営住宅の入居者数は20人ということが見受けられます。それをうけて「(帯広市在住の中国人の)5人に1が市営住宅在住」という発言になっているのでしょう。現在はこの頃よりも帯広市在住の中国人は減少していることが伺え、その頃の20人が依然として市営住宅に住んでいれば割合そのものは増えている可能性はありますが、とはいえ市営住宅の総戸数2848に比べればその割合は1%程度であろうし、また空き室の存在などを鑑みれば中国人が入居しても問題にはならないと考えられます。

 最後に追記的に書いておきますが、この件に関して「デマかどうかは別として」という弁護士がいました。


https://twitter.com/kitamuraharuo/status/1479965533487661060

デマなら駄目です。しかしこう言うことをツイートに書くということは北村氏はデマでもイデオロギーに沿うものならば許容するという倫理観を持っていると言われても仕方ないでしょう。なお生活保護者数に関しては帯広市には問い合わせはしていませんが、ここ1年半ほどで爆発的に増えている可能性は少ないでしょう。なぜならば2021年6月末の在留外国人統計によれば中国籍の人間は78人であり2020年時点より減っているからです。一部ツイートで中国人が1000名弱と言っている方がいますがそれは明確なデマです。

また最新データを何故公表しないかと言ったら通常国籍別に公表している自治体はあり得ず、それを随時更新はしないでしょう。
 ただここら辺の数の話をすると、例えばプー太郎さん氏や帯広市は中国人は8人しか生活保護を受けてないとしてそれを【デマ】としていますが、これに関して中国人を攻撃する人はそもそも8人ですら「大量」であり、外国人が生活保護を受けること自体に反対しているので「大量じゃない」という反論が意味をあまりなさないかもしれません。彼らはその時点で日本が侵食されていると過敏反応を起こしているのだから。

 「中国人が押し寄せる」という話について言えば、日本は相対的にこれからどんどん貧しくなっていく事が予想でき、相対的に富める国から貧しくなっていく国に大量に押し寄せる可能性は低いかと考えます。いつまでも日本が富める国、羨望の国、うまく入り込めばその富にあずかれる国という認識もそうですし、そもそも日本は外国人の人権に対しては厳しい国なんで杞憂というか、「日本」の自己認識を「お人よし」にしすぎです。残念ながら日本はそんなにお人好しな国ではない。



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武蔵野市の外国人も投票権を持つ住民投票条例案におけるツイッターでのバッシングの流れ

 以前「【デマ】「長野五輪で5千人の中国人が集合し暴動」は北京五輪の時の長野での聖火リレーの話の伝言ゲーム」という記事を書きました。ただそもそもここら辺のうねりの発火点とかを書いておくことも重要かなと思い。忘備録、アーカイブ的な性格の記事です。

そもそも住民投票で現実的に乗っ取れるか

 まず初めに書いておきますが、今回の武蔵野市住民投票条例に対する批判の中で「大量に押し寄せた外国人に市政が乗っ取られる」というのがあります。これについて現実的に見ていくと以下の様な指摘が出来ます。

1)住民投票案の発議は「投票資格者の4分の1以上」が必要
 投票資格者である18歳以上の武蔵野市の人口は令和3年12月1日現在で約12万7000人であり、その発議には約3万人の署名が必要になります。この署名数は市長選で当選できるレベルの署名数が必要というものであり、意見要旨の中ではハードルが高いのではないかという指摘も存在します。地方自治法に基づいた市長への条例制定請求の必要署名数が有権者の50分の1以上であることを考えればこのハードルの高さがうかがえます。

2)成立には投票率50%以上が必要
 武蔵野市住民投票は過去においてあったかもよくわからないので、市議会議員、市長選を基準に考えるならば近年のその投票率は45%ほどとなります。つまりは近年の投票率レベルだとそもそも住民投票が成立しません。そして必要な投票人数は6万3500人ほど。その過半数以上で賛成を得なければなりません。

3)特定の外国人勢力が乗っ取るには数万人の移住が必要
 以上のことから外国人が「乗っ取る」といった住民投票に対しては発議に約3万人、成立にはそれ以上の数字が必要です。で、じゃあそのような提案に日本人市民が賛成するかと言うと9割9分以上が反対でしょう。となると外国人の移住が必要となりますが、まず発議するために3万人の移住……、いや3万人移住となると発議に必要な条件が多くなるために実際に発議をさせるには4万人近くの移住が必要です。また投票率50%以上要件や日本市民の反対行動を考えれば4万人よりも多い人数の移住が必要なのは確実でそれこそ5桁後半、確実にするならば6桁に及ぶ人数の移住が必要となるはずです。現在の武蔵野市の市民は約15万人、そして外国人の人口は3000人ほどでその外国人比率は2%程度であり、また投票権は3か月以上の在住が必要。それらを考えるとそれだけの移住がどれだけ非現実的かはわかりますし、このレベルの移住には住環境の供給が賄えるかは疑問で、また定住の為の外国人数の金銭や人員の調達コストが莫大。故に外国人移住で~、というのを信じるのは荒唐無稽なレベルです。反対論者の中には「反日」の日本人が賛成するからという論理も出てきましょうが、それでも6桁に近いレベルの外国人の移民が必要なのは確かでしょう。
 ちなみに基本この手のは「中国に乗っ取られる」というものでしょうが現在の武蔵野市における中国人人口は約1000人。こっから万を超える悪意ある中国人が移住という事になるでしょうが、そもそも前提としてそのレベルの特定国籍の移住が行われて住民投票署名をそれらの人々が集めてとか、その時点で日本人住民の疑念と反対攻勢が発生しますし、住民投票の正当性そのものに疑義がつくレベルで成立しないのでは。

4)投票結果に法的拘束力はない
 で、そんな苦労をしても投票結果に法的拘束力はなく、議会と市長は成立した住民投票の「結果を尊重」というものです。つまりはそんな市政を乗っ取るレベルの提案は尊重はされた後に却下されるだけがオチです。今回の住民投票案にも反対の議員がいるようにそのレベルのものは当然却下されるでしょう。

5)そもそも除外規定が存在する
 長々と書きましたが、そもそも住民投票には6つの除外規定が存在し、その中には以下のようなものがあります。

市の権限に属さない事項。ただし、住民全体の意思として表示しようとする場合は、この限りでない。
住民投票に付することが適当でないと明らかに認められる事項

これらを考慮すれば「乗っ取り」レベルの提案は除外規定に抵触して発議自体無理でしょう。

6)住民投票権の地方自治への過大評価が過ぎる
 地方選などの外国人の地方参政権はあって良いとも思いますが脇道なので今回は置いておきます。今回の住民投票に対する投票権地方参政権の一部ですが、しかし下記のツイートは過大評価が過ぎる。

15万人の武蔵野市に8万人の中国人が武蔵野市に転居したら過半数にはならない。それはともかく住民投票は選挙ではない。除外規定もある。行政、議会を住民投票で乗っ取るという事はその都度住民投票を行わなければならずにコストも莫大すぎる。実現不可能レベルの「懸念」で仲間内を煽れれば良いのでしょうけれど、それにしたって地中に潜ってしまうレベルの低レベルの懸念。煽れれば良いんでしょうけど。

7)反対運動の存在
 そもそも「案」の時点でこのレベルのバッシングが起きるわけで実際にそんな住民投票案が出てきた場合、今回以上の運動が考えられます。それも署名段階から。皮肉抜きで彼らの監視機能は高いでしょう。ヘイトクライムの懸念も出てきてはしまいますが。

 以上の様にいくつか理由をあげましたが、いわゆる「乗っ取り」関連の懸念は杞憂、というか愛国扇動の為の道具と理解した方が良いです。実現可能性があまりにも低すぎる。それと付け加えてですが、愛知リコール運動の不正署名を受けて罰則規定はないものの禁止事項も付け加えられていたりします。単純に脅迫、買収などの不正な手段で署名集めてはだめってだけの既定ではありますが、それだけ愛知リコールの不正署名は影響がでかかった。
 それとこの住民投票に対する問い合わせは武蔵野市にかなり来ているらしく、武蔵野市HPに「「武蔵野市住民投票条例案」に対するよくあるお問い合わせについて」がありますので参考にしたいかたはどうぞ。「問7:外国籍住民が大量移住し、自国に有利な市長や市議会議員を選ぶことにならないか?」、「問8:外国籍住民が大量移住し、自国に有利な政策を意図的に提案することはないか?」などでこのブログ記事に書いてある様なことはすでに書いてあります。

バッシングの発火点とその流れ

 まずパブリックコメントが令和3年2月15日(月曜日) から 3月15日(月曜日)に募集されていますが、この時に集まったパブリックコメント数は16件。この時点で「発見」されていたら桁が最低でも2つは違ったでしょう。なおこの時の意見については無作為抽出市民アンケートや意見交換会の時の意見と合わせて、こちらにあります。外国人の投票権については意見の数自体は拮抗してますが中身を見ていくと反対論として挙げられている中で同じ人間による複数意見が記述されていますので人数自体では賛成が反対を上回っていることがここからも理解できます。
 まず8月に以下のようなツイートが存在します。

この時点でかなりの拡散はされていますが、ただそれ以降はそこまでの拡散はされておらず本格的な運動は11月になってからです。で、この問題の発火点、というか運動が見られるようになってきたのは11月7日の以下のツイート。

このツイートでchange.orgにリンクを貼り署名活動をしていますが、25,000 人に対して19,368 人が賛同となり未達成。8000以上のRTで市外からも署名できることを鑑みると割と少ないと言えるかもしれません。
 そして11月11日の産経の記事。

これでこのバッシングは決定的になったと言っていいでしょう。ここからこの件に関するツイートが激増します。そして「武蔵野市」という単語を使用し、1000以上RT、この条例へ反対のアカウントを抜き出すと以下の様になります。なお、先ほどの佐藤正久氏のツイートは除く。

※RT3000ほど


※RT5000ほど


※RTは5000ほど。パブコメの期間とかはそんなもんだよ


※RTは3000ほど


※ネット右派の中には橋本徹嫌いも多い


※和田氏は続くツイートをしてるが、新聞の取材姿勢についてなので割愛


※ちなみに住民登録ができない旅行者は投票権がない。国政の結果を左右する住民投票もよくわからない。辺野古移設レベルの話が武蔵野市にあれば話は別だろうけれど。


国民主権のことを言いたいのかもしれないけどそんな憲法前文はない。実際、選挙権や被選挙権、参政権を外国人に与えるものではないし、法的拘束力もないので違反するとは思えない。


※デマ。長野五輪で暴動はおこってない。


※除外規定にあたる可能性が高く杞憂


※「元から断たないと」の意味がよくわからない


武蔵野市レベルのハードルの高い発議条件の場合、正直なところ法的拘束力がない住民投票をやるレベルの自治体ってほぼないと思う


※こういった調査には「回答数」が必ずしも重要なのではない


※後述するが無作為抽出での結果と市外やネット署名数を含む2万4千名を比べてる時点で論外。


※外国人に地方参政権まである国があるのでフィフィ氏の指摘は論外。


※RTは1700ほど

以上のような流れです。21日の本会議を控えているためにそこでのハレーションもあるでしょうが19日現在はこのようなものとなっています。こう見ていくと産経と夕刊フジというメディア、議員経験者を含む議員系、右派系のインフルエンサーの3つに大別されます。大抵の主張は武蔵野市HPのQ&Aで答えが出るものですが、ここらへんの人たちが見ても納得は絶対にしないでしょう。

署名活動について

 今回はいくつかの署名が存在しています。まずは自称高校生が「武蔵野市松下市長に抗議の声を! 緊急」というものがありました。市長のリコールのきっかけづくり、みたいなものなのですがそこでは寄付が出来、署名数8666名、寄付は1,486,300円というもの。ただし当初署名ページに書かれた寄付の用途は寄付先などの都合で取りやめられ、返金対応のほか、以下のような対応をしています。

曰く、村田春樹氏の本を買って配布とのこと。またこのアカウントは「河野談話を破棄して下さい 村山談話を破棄して下さい」で同じく寄付を募っています。今度は「新しい教科書をつくる会」に寄付するとか。ちょっと胡乱。
 そして「武蔵野市住民投票条例を考える会」による署名。これはchang.orgと市内外からの署名を郵送してもらったもので「御報告」によればネット19000、郵送は5277。1か月で自治体が以下らを合わせて2万4000が果たして多いかと考えた場合、甚だ微妙な結果かなと。深田貴美子氏のツイートを参考にすれば市内での署名者は4000名ですが、これも有権者数を考えると多いととらえられるかは微妙なところ。
 なお武蔵野市による無作為抽出による結果は以下のようなもの。

 無作為抽出で7割以上賛成を考えると、例えば今反対している方たちのなかでこの標本に対する疑念を呈している人はいれど、実態としては賛成派の方が多い可能性は高いか。

 長々となりましたが記録はとりあえずこの辺で。21日以降の動きは(めんどくさいので)たぶん記録しないですが、こういったものを記録して疑似的なアーカイブ化する事もちょっと重要かなと思ったので、そういう忘備録です。傾向としてはやっぱ特定アカウントが大きく寄与してますがここら辺は右派、左派問わずにインフルエンサーがいる場所ではそれ自体は避けられませんけれど。さらに詳細に見るために100RT以上にするともっと増えますが、そこすると流石に多くなるのも考えもの。ただ今回の大きな特徴は一部の国会議員関連の議員系が積極的に関わっていること。そして何よりも産経と夕刊フジが複数回記事にしており意図を持った報道をしていることが大きいかなと。あと今回ツイッター内で限定してますが例えばyoutubeでは青山繁晴氏が以下のような動画を。

ほかにも竹田恒泰氏や、

上念司氏、

高橋洋一氏、

そしてひろゆき

ここら辺の拡散も馬鹿にできない。むしろひろゆきの動画は30万再生を超えており、その影響力もかなり大きいと考えられます。ツイッター以上にyoutubeでは反対派の動画が多く、また反論が届きにくい傾向を考えるとこういったものの流布に適した場所と言えるかもしれません。大変に宜しくないことですが。

 今回の件は例え地方に自治においても外国人が政治への意思決定プロセスに関与するのをきらってのことでしょうけれど、今回の武蔵野市住民投票の性質を考えたら意思決定ではなく意志表明への関与が叶う程度なのですよね。それすらも許せないのでしょうが。



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【デマ】「長野五輪で5千人の中国人が集合し暴動」は北京五輪の時の長野での聖火リレーの話の伝言ゲーム

 住民投票に法的拘束力はなく、また武蔵野市について言えば住民投票案の発議案は「投票資格者の4分の1以上」で現時点でさえ約32,000件の署名が必要。つまりはそういった「乗っ取り」という悪意を持った中国人がその為の住民投票を発議するためには数万人規模の移住を武蔵野市に、それも最低でも3か月以上前から準備しなければならない。この時点で実現可能性も、そしてたとえその署名で発議を実現させたとしても住民投票過半数を上回る事を考えた場合、そんな提案に存在するのかが疑問視される「悪意」を持った中国人以外に賛成する人間なんてほぼほぼ存在しえず、過半数を狙うならばそれこそ10万単位の移住が必要となるはず。はっきり言って住民投票で中国に乗っ取られるはそれを成り立たせるための前提が荒唐無稽すぎて現実にあり得ないわけですが、あの層は排外感情(愛国心)を訴えられれば良いのでそういう部分は無視できるんでしょう。あと除外規定として「住民投票に付することが適当でないことが明らかな事項は、住民投票の対象から除外します」というのが当然ながらあるのでそんな提案、除外規定に抵触してそもそも無理だと思う。どうやって乗っ取るんですかね。
 武蔵野市住民投票については武蔵野市HPの「住民投票制度について」が詳しく、ちなみにそこでは無作為抽出によるアンケートをおこない、下記の様に賛成7割越え、反対は2割となっています。

反対派の中にも今回のネット上の反対派とほぼほぼ同じスタンスでいる人、なんとなくの違和感で反対している人も多いでしょうから何とも言えませんが、ただこう見ると反対派は無作為抽出なら2割しかいない。

中には今の反対コア層と同じ意見もありますが。反対派の意見も全て載っているので、その手のものを見てみたい方には参考になるかなと。
 ちょっと長い前振り終了。

長野五輪で5千人の中国人が集合し暴動の件

 「長野五輪で5千人の中国人が集合し暴動になったことを忘れてはならない。」ですが、ある程度の過去を覚えている人間ならばそんな事実はないことが明らかであって、そして元ネタはこちらです(あえて産経新聞ソース)。

中国人の来日目的が観光から「敢行」に変わる日 2015/3/2
中国は平和の祭典・北京五輪を前に、長野市での聖火リレーで、チベット人大虐殺に対する世界の人々の抗議を嫌い、留学生ら3000~5000人(1万人説アリ)を大動員。「聖火護衛」と抗議ムードを薄め歓迎ムードを盛り上げる「サクラ」に仕立てた。国防動員法施行前の08年でこの動員力。

この流言のネタ元は2008年04月26日に行われた北京五輪聖火リレーが長野県長野市で行われた際の事。時事通信では以下の様に紹介されています。

時事通信
聖火リレーのために、日本全国から集まってきた中国人留学生ら。チベットへの弾圧で、聖火リレーの妨害が世界的に広まったことを受け、数千人の在日中国人が沿道で五星紅旗を振った(長野県長野市)(2008年04月26日)

というようにこれ自体は異様な空気感と言えます。なお暴動、というか妨害自体はafpによれば日本人が発端ですし、朝日新聞の記事によれば日本人5人、台湾人1人が関与。

騒然長野聖火リレー 投げ込み・乱入など6人逮捕 2008年4月27日
長野県警はゴール近くなどでも3人を逮捕。リレー中の逮捕者は計6人となった。
 調べによると、同日正午ごろ、走者にトマトを投げたとして愛知県の自営業の男(63)を暴行容疑で、走者に向かって飛び出したとして東京都の会社員の男(38)を威力業務妨害容疑で、それぞれ現行犯逮捕した。また、沿道から火のついていない発煙筒と抗議ビラを投げ込んだ神奈川県の会社員の男(33)を暴行と道交法違反の容疑で逮捕した。6人はいずれも容疑を認めている。

ちなみに公安調査庁によれば「北京五輪聖火リレーをめぐり、右翼団体チベット支援団体が、「北京五輪開催反対」「チベット弾圧反対」などを主張する抗議活動を実施(長野)。」とあります。逮捕された人間がそれに属するまでかは不明ですが、この件を漁る限り、スタート地点の善光寺1日数十件の電話という情報があったり、当時の動きが垣間見えます。またこの件に関しては当時の福田首相が中国人を逮捕するなといった発言も一部で流布されていますが、胡乱すぎるので無視します。
 これら一連の動きは2022年の北京五輪と同様の論理でしょうし、中国における人権問題、チベット問題もあるのは確かです。それを発端とした小競り合いがあったことも事実でしょう*1。これが右派的なスタンスから見れば「暴動」として語られること自体に事実としてどうかはともかく違和感はありません。またこれ自体は百田尚樹と石平の対談本『「カエルの楽園」が地獄と化す日』において「長野県聖火リレー事件」として語られており、一つの懸念を示すための材料になっている事も理解できます。
 とはいえ、これが起こったのは長野五輪ではない

長野五輪で暴動がおこったという誤解

 要は伝言ゲームで、「北京五輪の世界リレーが長野市で逮捕者」がまぜこぜになって「長野五輪で暴動」へとなったわけですが。ツイッターで遡る限り2010年にはもう誤解が見られます。

元から情報が似通っていて伝言ゲーム的になりやすいとはいえ2年経過時点でもう長野五輪でのこととなっています。そしておそらく2010年7月には中国で国防動員法が施行され、その際に以下の様なメールマガジン宮崎正弘氏によって配布されます。

宮崎正弘の国際ニュース・早読み(中国、本日、国防動員法を施行
7月1日より「国防動員法」が中国で施行された。 つまり国家非常事態における国民総動員を法律によって規定し「合法化」したシロモノで、外国に住む中国人も適用を受ける。百万近い在日中国人も、長野五輪紅旗動員事件のように、強制動員が可能となる

拡散というほどではないですが、これがちょっとだけ反応を得ます。この時点で最早デマですし、田母神氏のツイートに至る道が確定したと言えるかもしれません。

2013年には非公式引用スタイルとは言え、以下のツイートが少し拡散。

2013年ごろには既に「長野五輪」という認識のツイートが散見されるようになっており、根付いてきている事が分かります。そして2014年。

まとめ記事である「これは国民の命がかかる選挙である。長野五輪を五星紅旗で制圧した四千人の中国人「留学生」はどこから来たか? 東京ではないか!」が拡散。この出典は「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」の2014年1月10日の西村真悟氏のコラムをまとめた記事です。そしてこの中に以下の様な記述があります。

▼首都東京から「脱戦後」へ!
 二月九日に投票が想定されている東京都知事選挙の枠組みと歴史的意義を述べておきたい。
 結論;自衛隊航空幕僚長であった田母神俊雄の立候補によって、必然的に「戦後を脱却する」か「否」かの選挙になった。

そう、この時期に都知事選があり田母神氏が立候補しています。記事内では「北京オリンピック聖火リレーが行われた長野市」と書かれているもののタイトルに「長野五輪」とも書いており、容易に誤解を生む内容。そしてこの記事は複数人がツイートしているものの、かなり拡散したというわけではないようですが以下の様な反応もあり、

田母神氏の応援層にこういった認識がある程度とはいえあったことが分かります。これらの支持者の声を受けて田母神氏が「長野五輪で暴動」という認識を得たかどうかまでは分かりませんが、かなりこのデマに近づいた時期であることだけは確かです。まあ、氏の事ですからこれがなくても自ら近づいていた可能性も否定できませんけど。
 なおその後にも拡散はさほどされずもツイートは継続的に続き、有名どころのアカウントでは以下の様なものがあり。

というようにネット右派界隈で最早事実化している人間がいることが伺えます。そして、田母神ツイートに至る、と。

 流石に何かを語るときには最低限の事実確認くらいはしよう。  

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*1:逮捕者が出るレベルのものではなかったのでしょうが、それらの人間が逮捕されないから逮捕しては駄目という話が生まれたの可能性もある。なお、youtubeで調べれな右派系の動画がヒットしますが、これはリンクしません。

「毎日新聞がカビマスクを捏造した」というデマの生成過程

 正直、いい加減にしてほしいって気持ちがあるんだけれど、この【デマ】の経緯についてちゃんと書いたことがなかったので書いておきます。

毎日新聞のカビマスクの画像の出所は厚労省

 まずですが、毎日新聞が報じた記事というのは4月21日の「虫混入、カビ付着…全戸配布用の布マスクでも不良品 政府、公表せず」であり、そして画像とは以下のもの。

さて、こちらの画像については後述しますが報じられた直後からその画像の真偽に対して疑問の声が上がりました。キャプションには「関係者提供」とあり(ちなみにこの「関係者提供」初報段階ではついておらず後から付きました)、そしてこの画像の出所が明らかでない事、そして似たようなカビマスクの報告がなかったことからなど、他の理由もあるもののそれによってこのカビマスクの画像は捏造だという声が一部で上がりました。ただ、以前にも「全戸配布用布マスク(アベノマスク)の不良品(カビ等)は毎日新聞のデマというけど、それがデマ」という記事に書きましたが、この画像の出所は厚労省です。
 まず4月18日に厚労省は「妊婦に対する布製マスク配布における不良品事例の報告について」というプレスリリースを出している様に4月14日から配布された妊婦用向けマスクに不良品事例が報告されます。そして同じく4月18日、厚労省の合同マスクチーム内部文書で以下の「国から配布している布製マスクに関する問題について」というものが作成され、その文書には以下の様な記述があります。

2.【4月調達分】全戸配布【発送前段階で検知・除去】
〇4月16日時点までに、全配布用にパッキング作業を行った布製マスク200万枚のうち、問題事例が約200件、報告された。■社から納入されたものにおいて糸くずや髪の毛の混入、■社から納入されたのにおいて、カビ、虫の混入である

というようにパッキング作業時点での布製マスクにおいてカビの混入が確認され、以下の様にその状態が例示されています。

このことからカビマスクについては以下の様にまとめられます。

【カビマスクについての時系列と状況】
・4月16日 この時点までのパッキング作業で問題のマスクが見つかる
・4月18日 厚労省が件のカビマスク画像を用いた資料を作成
・4月21日 毎日新聞が資料を手に入れて記事化する

以上の様な流れです。毎日新聞の記事を受けての反応の中には袋の中に全世帯向け配布マスク用を示すリーフレットがないことへの疑義を呈している方もいましたが、件のマスクが見つかったのはそれらのパッキング作業中であろうでリーフレットがないのは当然です。カビマスクレベルのものならばリーフレットを入れる段階で気づく不良品ですのでここで弾かれ、そして不良品事例として資料が作成されたというのはなんら不思議ではありません。そもそも厚労省に渡る前の検品で弾かれていないといけないレベルのもので、当該納入企業の検品状態がおざなりであった事が伺えます。なお厚労省はこれらの不良品を受けて納入企業に対して検品の強化を要請しています。
 それと毎日新聞の件の記事には以下の様な記述があります。

政府の対策班に配られた内部文書によると、18日時点で妊婦向け以外の全戸配布用に包装を始めた200万枚のうちでも、虫や髪の毛、糸くずの混入、カビの付着など200件の異物混入などの問題事例を確認。これについては公表しなかった。

この内部文書が「国から配布している布製マスクに関する問題について」であり、そして現時点においても公表はされていません。しかしこの記述そのものはなんら誤ってもおらず、写真も厚労省の文書内にあるものであり、「捏造」という指摘そのものがデマといえるでしょう。毎日新聞厚労省内への取材で明るみに出た記事でって、ジャーナリズムとして褒められる事があったとしても、捏造という誹りを受ける謂われだけは絶対にない事例です。

捏造というデマ生まれ、広がるに至った経緯

 ここからはツイッターまとめの様なものです。この報道に対して疑義を呈しているなかである程度拡散されているツイートを貼っていきます。
 まず毎日新聞の記事がWebに出たのは「2020/4/21 18:57」。当初の反応はその画像のインパクトなどからも単純に驚きというものでした。ただ記事の公開数時間後にちょっとした疑問「一度開け、チラシが無い」ことへの疑念が呈されます。

・4月21日 22:54

ただこの疑問に関しては記事をちゃんと読めてません。記事では「配布されたマスク」でなく「包装を始めた(マスク)」と記述されており、チラシが入っているはずはありません

・4月21日 22:56

「カビマスクが届いた人」云々という反応も見られますが、これも同様に配送前に判明した事例なので、目視レベルで分かるものは除外されています。

・4月21日 23:07

こっちは根拠不明に「デマだとしたら」とツイート。

・4月22日 2:20

そして4月22日からカビマスク捏造論に対しての論理「的」根拠が述べられていきます。

・4月22日 2:58

またデマとまで入ってはいないものの、なぜこの捏造論に拍車がかかったのかが理解しやすいツイートとしては以下のものがあります。RT数も1000を超えて記事に対しての不信が徐々に増えていっている事が分かります。またこの方は何故か記事のキャプションについて疑義を呈していますが、記事を読めば匿名の読者からの情報提供ではあり得ないことが分かります。記事を読んでいないのか、記事を読んでも理解できないのか、意図的にスルーしているのか分かりませんが、なんにせよ記事に出所が類推できるのにそれを無視して妄想をしている時点であり得ません。

・4月22日 3:58

更なる論理付けがなされていき、1800件を超えるRT。そして、

・4月22日 5:25

4月22日の午前5時の下記ツイートが1.9万RTされており、相当の拡散がなされます。この時点でカビマスク捏造論が根付いたと言えるかもしれません。

・4月22日 7:22

拡散としてはそこまでではありませんが以下の様な分かりやすいまとめツイートも現れ、4月22日にはShare News Japanが「【話題】『問題の“カビマスク”と“アベノマスク”… これ、自作自演の可能性あるべ』」というものでまとめ記事化。現在この記事は削除されていますがアーカイブで確認可能で、これまた現在削除された4月21日時点のツイートが載っています。RT状況などが分からず痛し痒しですが……。

またまとめ記事に関しては4月23日にtogetterに「出処はどこ? 毎日新聞記事のカビ付着マスク写真にフェイクを疑う声多数」というものもありますが、こちらも同じく現在は削除済み。こちらはアーカイブでも見られないのでどの様な内容であったかは不明です。また「【自作自演】アベノマスクのカビ騒動はデマだった!毎日新聞記者は逮捕の可能性も!?」という記事も。少なくともこれらのまとめ記事によって捏造認識がさらに加速したことは想像に難くありません。
 さて、ここからは日時の部分は記載なしで進めます。ほぼほぼ完全なツイッターまとめ。


※喜多野土竜氏のツイートツリーは長くなるので割愛


※引用先がないので下は割愛。RT数は100程度


※遠子先輩のツリーは長いので割愛

 ここまでが報道のあった4月21日からほぼほぼ一週間のツイートの中で毎日新聞の報道に対して疑念を呈したアカウントの一部です。数十RTレベルの拡散でさえこのレベルの量であり、それよりも少ないつぶやきを含めればかなりの量がツイートされたことは確かであり、また現在削除やアカウントの鍵付きにより不可視化されたツイートを除いてさえこの状況。見ている人間がそれなりに被っている事を鑑みたとしてもまとめ記事と併せて相当数の人間が「カビマスクは毎日新聞のデマ」という認識に触れているであろうことが分かります。またもう一つの特徴としては記事を受けての単純な反応、政権批判ツイートは1,2日で終わりますが、この「毎日新聞によるデマ」は1週間ほど続けられ、またツイートによる種々の論理付けが行われている事です。長さと事実とは異なるものの論理「的」なツイートによって捏造論が一部の人の中で事実化している事が伺えます。
 ここからは5月以降のツイートですが、勢いは衰えたもののそれでもまだ時折拡散されている事が分かります。なお、しつこくなるので数十RTレベルのものはなるべく排除しています。


※内部資料って記事に書いてある……


※記事を見れば配達前のマスクってわかるんですけどね


※長くなるので下削除。300RT程度


※長くなるので下削除。120RT程度

  


※長くなるので下削除。600RT程度

 ってな感じで今に至ります。拡散していないものを調べればもっとあるのは確実です。それと見ればわかる様に同じアカウントが複数回つぶやき、嘘を繰り返すことによって事実化しているとさえいえる行動をしています。またカビの付き方みたいな疑問はともかくとして画像の出所は記事を読めば類推可能であり、厚労省が把握している問題だというのが分かります。正直騒いでいる人間のうちどれくらいが本当に記事の内容を理解しているのかさえ不明。またこれによって配達が遅れたとありますが、該当資料にはその影響は不明とありますし、検品の強化による納入の遅れが果たしてどれくらいであったかも不明なので、この件については言及は不可能です。ただしかし、これは毎日新聞の報道前からの厚労省の作業によって明らかになった問題であり報道前に検品強化を要請している時点で仮に遅れたとしても毎日新聞の報道の影響ではなく、企業側の問題です。
 もともとこのデマは報道不信、特に朝日、毎日嫌い、左翼嫌いからくるネガティブ感情がおそらく前提にあり、そこに記事の読解力の低い事から端を発する飛躍、事実とは異なっていた論理「的」な肉付け、そして何よりもエコーチェンバーでもたこつぼでもインナーサークルでも何でもいいですが緩いながらも似通った政治傾向、問題意識を持つアカウント群による記事が明るみになった直後の短期的なカウンター的拡散と長期的投稿による問題意識の定着と普及が見受けられます。ただ何度デマを吐こうが、いくら論理的な説明をしようとしようが、根拠不明の断言をしようが、それはどこまでいってもデマだ。嘘だ。不誠実だ。



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