電脳塵芥

四方山雑記

2021年6月7日に「半島結び」という概念が生まれた

togetter.com

 というまとめがあってその中に「半島結び」という概念が語られてました。まとめの中ではこの結びは「片花結び」と言われています。ただそれは置いといて、この「半島結び」なる概念、6月7日前にはおそらく存在しません

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以上の様にツイッターで検索すると今回の件が話題になる前には「半島結び」という単語は引っかからず、またグーグルに関しても同様で「半島結び」を期間指定でこの話題以前で検索しても引っ掛かりません*1。ちなみにこの「半島結び」という概念は6月7日午後2:31の以下のツイートが初で発。

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この方自身が何故「半島結び」と名付けたのかまでは謎です。ただこれが若干界隈で受けます。で、その中の一人がハッシュタグをつけてツイートを連投します。

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上記のアカウントのツイートはバズってる様子はないものの数十回もこのハッシュタグをつけたツイートをしてます。かなりしつこい。
 全体的にバズったツイートはほぼなく使ってる人間も少ないので今後この概念が広まるかは分かりませんが、過去に類例があるので記録しておきます。

*1:正しく言うと引っかかるけど、今回の件が誤って検索に引っかかるだけ。

尾身茂氏はクメール・ルージュとは直接停戦交渉はしていないと思うのだけど

クメール・ルージュとの停戦交渉に比べれば、日本の政治家と話すのは簡単ですよね…

 というツイートがあったのですが、これについて少し。まずバズってますね。togetterで「「日本の政治家と話すほうが簡単だろうな」尾身茂会長はワクチン接種のためフィリピンやカンボジアで交渉を行い当事者に『停戦協定』を結ばせることに成功していた」という題名でまとめられてますし。で、医師の中にはこんな反応をしている方もいる。

 まず第一にですが、この尾身茂著『WHOをゆく』を読む限りクメール・ルージュポル・ポト派)については尾身氏自体は交渉していないと考えられます。

フィリピンでは(略)当時のラモス大統領に依頼したところ、「停戦協定」が結ばれ、期間中は武器を置いて、子どもたちにワクチン接種を行うことが可能となった。同様のことが、クメール・ルージュとの紛争中のカンボジアでも実施された。

以上の文章を読む限りはフィリピンについては大統領に依頼したのは尾身氏であると受け取れますが、カンボジアに関しては尾身氏自身の交渉ではなくフィリピンと同様の停戦協定が実施された、と捉える方が文章的には自然でしょう。尾身氏の文章では誰がカンボジアにおける停戦交渉をしたのかは分かりません。

当時の新聞から振り返る

 三大紙のデータベースを調べると朝日新聞のみ94年近辺の尾身茂氏の行動が時折記されているのでここに引用します*1

カギ握るカンボジア ポリオ撲滅めざす西太平洋
(略)最も有効な手段は、全国一斉に乳幼児に予防接種することで、(略)ほかの各国でも今年三月までに、それぞれ二回ずつの一斉予防接種日を設けることしている。
 ところが、カンボジアでは二月に予防接種を行うものの、プノンペンと近郊だけ。三月にも予防接種を予定しているが、全国一斉に行うにはワクチンの購入と人件費に約五千万円必要で、まだ資金のあてはない。
 このほどカンボジア当局者との会合のために訪れたWHOの尾身茂医師は「巨大な人口を抱える中国でもめどは立った。九五年根絶の目標を達成できるかどうかはカンボジアしだいだ」と話している。
朝日新聞 朝刊 1994.1.20

記事中にあるカンボジア当局者ですがポル・ポト派ではなく当時の政府であるラナリット第一首相(フンシンペック党)、フン・セン第二首相(人民党:旧プノンペン政権)の2人首相制連立政権と考えるのが妥当でしょう。なおポリオワクチンの投与はこの記事では94年2月と読めますが、尾身茂氏も関わっている論文「ポリオ根絶構想とAFPサベーランス」では95年2月に一斉投与が始まったとしています。素直に読めば94年2月は一部地域、そして全国一斉のワクチンが95年2月という事でしょう。
 次に当時のクメール・ルージュについては同時期にこの様な記事が存在します。

関心の持続必要 カンボジア新国家発足1年 今川大使インタビュー
ポル・ポト派の現状は?
 チア・シム議長はごく最近、実勢力として戦闘要員三千、家族や後方支援を含む非戦闘要員一万、計一万三千という数字を私に示した。多くて二万だろう。カンボジアの人口は今九百万だから、一%にも満たない。中核は三千程度だとされる。数住人単位で村を襲ったり、強盗集団化している。かつては、タイとの国境地帯に近い数カ所に固まっていたが、半年ほど前から各地に分散している。
 このままだと、十一月以降の乾季から来年四月ごろまでが決戦になる。(略)政府軍は今は一番の頼りの米国のほか、豪州や仏などからも軍事援助を得たいと考えている。(略)
 ポト派は何とか有利な条件を得てまた政治集団化したいのだと思う。軍事的対決が強まると、誘拐などの事件がふえる危険もある。対話が芽生えてほしい。
朝日新聞 朝刊 1994.9.20

ワクチンの接種が始まったであろう94~95年のクメール・ルージュは当然ですが全盛期とは程遠い勢力であり、例えば知念氏が想定していそうな「文字通り皆殺しにした危険極まりない組織」というのは確かにあった過去であるものの、しかしそれは最早当時でも過去の事であると考えた方が良いと考えます*2。この頃のポル・ポト派は1993年のカンボジア国民議会選挙に参加しておらず、新政権と戦い続けていた状況。新聞記事を読む限りは強盗集団化したりと厄介な武装政治勢力であり、それはUNTAC特別代表としてカンボジアにいた明石康氏が『「独裁者」との交渉術』でも伺い知れます。ただしそれを継続的に激しい戦闘が続く内戦状態というまでかというと同明石氏の『カンボジアPKO日記』に目を通す限り少々疑問です*3。とはいえ緊張感のある政情であったことは確かで全国一斉ワクチン投与という話になるならば彼らにも話を通さなければ無理だったは考えます。
 ですので、この当時のクメール・ルージュを「あの」クメール・ルージュポル・ポト派)という様な扱いをするのは過大評価でしょうし、それとは逆に全く勢力としては死んでいたという様な言説も過小評価といえるのではと。95年2月の全国一斉ワクチン投与期はポル・ポト派の末期であることは確かでしょうが、とはいえ当時のカンボジア内で一定程度の政治勢力であったことは確かでしょう。
 さて新聞記事を貼るのはこれで最後にしますが、少し時が飛んで2000年の新聞記事をば。

西太平洋地域のポリオ、WHO京都会議で根絶宣言へ
 政治状況もNID(※引用者注:全国一斉ワクチンデー)を阻んだ。武力紛争が続いていたフィリピンでは、WHO西太平洋地域の尾身茂事務局長が双方に働きかけ、九十三年にポリオのための「一日停戦」を実現させた。一人っ子政策下の中国政府が「いないはず」とする第二子以降の子どもたちにもワクチンを飲ませるよう、中国政府を説得した。尾身局長は「微妙な問題でしたが、これはクリアできないと根絶はできなかった」と振り返る。
朝日新聞 朝刊 2000.10.21

西太平洋地域のポリオ撲滅宣言記事の中で尾身氏の功績について触れている箇所ですが、カンボジアで停戦を実現させたとは書いていません。また引用まではしませんが朝日新聞夕刊1998.6.18「ポリオ根絶(窓・論説委員室から)」においても尾身氏の苦労話を聞いた書き手がメコンデルタ、中国の話は触れていますがカンボジアの話はしていません。これらの記事でフィリピン*4ベトナム*5、中国政府での行動が記されている以上、尾身氏がカンボジアで停戦を実現させたのならばここにそれが書かれてもなんらおかしくなく、翻ってその記述がないということは尾身氏の『WHOをゆく』の記述の様に尾身氏が行ったのはフィリピンの一日停戦であり、カンボジアはそれに倣った、若しくはポリオ撲滅のために組織内ですべきとされていた行動と見た方がよさげです。少なくとも尾身氏と記者の会話の中でカンボジアについてはそこまで大きな事柄でなかったのは確かでしょう。なおここではカンボジアについて現在ツイートされているような特筆すべきネゴシエーションがなかったであろうという話であり、確認できる尾身氏自身の行動については政府担当者を説いて回り出張ばかりだったという記事(読売新聞 2000.12.18)も存在しており、ことポリオ根絶については大きな役割を担った事は確かでしょう。

カンボジア国内の記事から

 プノンペンポストというカンボジアの英字新聞に当時の記事をアーカイブ化したものが読めます。例えば「Polio vaccine for all(1995.2.24)」。これは第1回目のNIDについての記事ですが、クメール支配地域外を除く地域で接種が行われたようで停戦についての話はこれ以外の記事でも見受けられません
 またこちらはThe CAMBODIA DAILYというサイトですが、カンボジアで最後のポリオ感染者という少女についての記事「Girl May Be Cambodia’s Last Polio Victim(2001.4.5)」において、同国の根絶のための歩みが記述されていますが停戦については触れられていません。ついでに尾身氏の名前もなく、あるのはWHOのカンボジア予防接種プログラムの技術責任者のKeith Feldon氏です。当然と言えば当然なんですが尾身氏の名前を過大に評価することはこうした現場で動いた方々の功績の剽窃にもなりかねないので注意が必要かなと。
 軽く探しただけだと上記の二つのサイトがありプノンペンポストの方では複数記事があるけれど、少なくともクメール・ルージュがポリオワクチンの障害になっているという記事はなく、停戦という様な内容もなさそう。これらを見る限り大々的な、歴史に残るような「停戦」はなかったであろうかなと。また1995年の第1回NIDについてはクメール・ルージュの支配地域外のみしか接種が行われていない記述がある事からも「尾身茂がクメール・ルージュと停戦交渉した」は事実に反する可能性が非常に高いと考えます

 尾身氏が西太平洋地域のポリオ根絶に尽力したのは本当でしょうけど、カンボジアの件は針小棒大の「尾身茂スゴイ!」的で、正直反応としてはチョロい気がする。時代が違い、勢力が違う。歴史認識って大事。



■お布施用ページ

note.com

*1:読売、毎日はポリオ撲滅後に記事にされる程度であり、朝日はポリオ撲滅に取り組んでいるあたりから尾身氏の記事が見受けられます

*2:実際の当時の組織内の思想性までは分かりようがありませんが。

*3:明石氏の滞在期間は93年までなのでワクチン全国一斉投与のあった95年2月は状況が若干異なります。ただしこの時間の経過は状況の悪化よりも、その後のポル・ポト派の衰退を考えるならば状況はやや良くなっている可能性のほうが高いかなと。

*4:尾身茂氏はフィリピンのマニラにあるWHO西太平洋事務局に出向

*5:ベトナム国保健省ホーチミン市パスッール研究所にも所属

厚労省にPCR検査抑制についての資料を開示請求したら不開示請求でした

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 志位和夫氏が4月に以上の様なツイートをしてたわけです。この資料が本当ならば志位氏が書いている通り「検査を広げると医療崩壊」という類の資料と言われても致し方ないでしょう*1
 で、興味本位で上記のツイートを提示して開示請求してみました。そしてまず戻ってきたのが以下の様な開示延長の通知。

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3 延長の理由
新型コロナウイルス等、審査と並行して処理すべきその他の事務が著しく多忙であり

以上の理由で開示延長。そしてこの延長後の期間が過ぎ去り、また以下の様な通知が我が家に参りました。

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2 不開示とした理由
上記の文書については、審議、検討又は協議に関する情報であって、公にすることにより、率直な意見の交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ及び不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれがあるものであり(略)不開示とした。

 志位和夫氏がツイッターにあげていた文書は不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれがある文書だったらしいです。そんな文書ならば実物を見たかった。再度の審査請求をするほどの文書であるかは悩ましいのですが、それはともかく何はともあれ残念極まりない。

*1:ちなみに検査抑制については東京新聞2020年10月11日に"「PCRが受けられない」訴えの裏で… 厚労省は抑制に奔走していた:東京新聞 TOKYO Web"という記事もあります。ご興味があればどうぞ。

日本で行方不明児童が増加しているのは中国人による臓器売買の影響とは言えない

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 というデマゴーグアカウントのツイートがありました。リンクされてる記事の方は2021年5月16日のまとめサイト「ツイッ速!」の記事”日本で行方不明になる子供が増加 中国人に誘拐され臓器売買されてる(画像あり)”というものであり、その内容は以下の様なもの。

1: リバースパワースラム(SB-iPhone) [ニダ] 2021/05/16(日) 11:23:43.12 id:Sr9UPNRs0● BE:144189134-2BP(2000)
sssp://img.5ch.net/ico/nida.gif 2020年7月8日に、静岡県の道路上で、10代の女子小学生を車で連れ去ろうとした中国籍の女性(44)が逮捕されました。
真偽は不明ですが、中国では子供が誘拐されて、人身売買や臓器売買に使われる事件が後を絶たないと言われていて、年間20万人もの子供が行方不明になっているとも言われています。
今回静岡県で子供を誘拐しようとした中国籍の女性が逮捕されましたが、日本でも9歳以下の子供の行方不明者が年々増加していて、アプリ「TikTok」から中国が家族構成や居住場所等の情報が盗まれていて、人身売買や臓器売買に関係している可能性が指摘がされています。
今回の事件から中国籍の女性が犯罪シンジケートに係わっていないか等、徹底的な捜査が求められそうです。

さらにこの書き込みにある記事自体は「SOCOMの隠れ家」という個人ブログのものであり、その記事”日本で行方不明になる児童が増加中!「TikTok」から中国に個人情報が盗まれ臓器売買されてるという指摘も”は2020年7月14日のもの。で、この記事のネタ元は以下のツイッターユーザーの書き込みが発端です。

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 さて長々と前置きを書きましたが、以上の様な扇動的な内容のものが結構な数をRTされていたので指摘しておきます。
 まず第一に、というかこれが全てですがこの話は徹頭徹尾根拠レスの個人の感想です。一番最初に引用した記事の様な文章は「こたママ」氏のツイートを受けた「SOCOMの隠れ家」が書いたものですが、こたママ氏のツイート内容は中国国籍の女性が小学生を誘拐しようとした事件と単純なデータの変化を強引に結び付けたものであり、誘拐未遂事件の動機も記事には書かれていません。ちなみにこのこたママ氏のTLを見る限りは中共を大層嫌ってそう。ツイートでは自分の文章と記事のリンクを貼りながらも、直接中国人のせいだとは言ってないのはある意味「上手い」ツイートかもしれない。そして扇情的な「臓器売買」については更に根拠のないツイート(現在アカウント削除済みで「SOCOMの隠れ家」にその痕跡だけが残っている)や世界的に存在する子どもの誘拐における臓器売買と結び付けてのものですが、それをもって中国国籍-誘拐-臓器売買を繋げるのは根拠薄弱です*1
 で、このデマゴーグを流れにすると以下の様なもの。

1)実際の事件が起こる(今回は中国国籍の人間が関与)
  ↓
2)悪意ある人間が事件と関係のない「憶測」をして煽る
  今回はデータを添えて説得力を増させる
  ↓
3)それを受けてか「臓器売買」というさらに根拠のない憶測がツイートされる
  ↓
4)個人ブログがそれらを記事化して体裁を整える
  ↓
5)ブログ記事が掲示板に書き込まれる
  ↓
6)まとめブログがまとめ記事化
  その際に「(画像有り)」として題名だけだと事実と見せかける
  なお事件の画像だが題名にあるような画像ではない
  ↓
7)デマゴーグアカウントがツイートしてさらに拡散

 他の案件だと事件~ツイート~まとめサイトにすぐ行く場合もありますが、今回はそれなりの時間が経過した後に再度デマが広がったというものです。黒瀬深氏は「こういう事をもっと報道するのが報道機関の役目」とか言ってますが、根拠のない個人の憶測を報道するのは報道機関の役目ではありません。その役目を担ってるのは黒瀬氏の様なデマゴーグアカウントだけです。

児童の行方不明者の状況について

 さて発端のこたママ氏はソースとして「平成30年における行方不明者の状況について」を挙げており、それ自体はとてもいいことです。ですが同資料の中にある「行方不明者数の原因・動機別割合(年齢層別)」を貼っていないのは少々恣意的と言われても致し方ない。

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児童(0~9歳)で多いのは家庭関係。「誘拐」などの犯罪を思わせる項目がないのでいかんともしがたいですが*2、これらの動機を見る限り行方不明数と事件性を単純に直結させるのは止めた方が良いかもしれません。それと警察庁に9歳以下の動機についてここ数年分の資料提供を頼んだところデータをもらい受けました。それによると動機の変遷は以下の様になっています。

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 主に増加しているのは「家庭関係」及び「不詳」となります。不詳についてはその性格上言及は難しいので避けますが、「家庭関係」については探偵業の経験のあるブログ記事に以下の様な指摘があります。

幼い子どもの行方不明者が増えている理由
(略)
同統計結果によると、ほぼ半分近くのケースが家庭関係に起因しているようです。実際小さな子どもの場合は、親の都合の夜逃げに巻き込まれたり、片親の連れ去り事件のパターンが大半です。
(略)
以前であれば、片親の子供の連れ去り問題では、捜索願が出されにくかったり、警察が受理を拒否したりするケースがありました。上記のような社会情勢の変化によって、片親の子供の連れ去り問題も、失踪事件の一つとして認知されるようになっています。それが、9歳以下の子供の失踪事件増加の一因と考えられます。
インフォグラフィックで見る行方不明者問題:失踪者が増え続ける日本と海外諸国との比較

この子供の連れ去り問題は色々と広がりのある話題なもののそれは本題からずれるのでここでは割愛します。ですが上記の指摘の通りであれば行方不明者数の増加そのものにはこの問題がある事は念頭に置いた方が良いかもしれません。この動機の変遷を見ると「不詳」の内容次第で結論が変わる可能性はあるものの、ただ行方不明児童増加=臓器売買の影響というにはかなり苦しい*3

略取誘拐数の推移

 そもそも行方不明ではなく略取誘拐数を見た方が早い気もするので、以下にここ数年の児童の略取誘拐数を貼っておきます。

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この資料を見ると略取誘拐数100件近辺で上下しており、近年は若干増加中といえるかもしれません。さらに「令和元年の刑法犯に関する統計資料」に以下の様なデータが存在します。

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100万人当たりでみた場合、未就学児、その他以外の年齢層で顕著に増加している事が分かります。被害区分は以下の通り。

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以上の様に特に中高生層の未成年略取誘拐が増加しており、これ自体は懸念や詳細にその原因を検証していかなければいけない問題でしょう。ただ「人身売買」はここ数年、認知件数は0で推移しています。

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以上の事からも日本において、少なくとも事件化している人身売買はここ数年発生していません。「臓器売買」というカテゴリがないために、臓器売買=人身売買と単純に直結していいものかまではわかりませんが、人身売買の少なさから見ると臓器売買が増加中とは中々に考えづらいものです。これらの数字を見る限りはまとめ記事にあるような「日本で行方不明になる子供が増加 中国人に誘拐され臓器売買されてる」はデマの類と言って差し支えないでしょう。
 そもそも。本当に臓器売買目的の誘拐が為されれば絶対に、必ず報道されます。これは「宇和島臓器売買事件」、「生体腎移植売買仲介事件」を鑑みれば想像は容易でしょう。特にその臓器が児童からくるものだったらなおさら。心配せずとも事実であれば報道されるものであって、報道されないのは根拠のない話だからです。

中国における誘拐について

■年間行方不明者「20万人」について
 おまけ的なものですが少し書いておきます。まず冒頭の記事で中国では子どもの誘拐が「20万人」とされていますが、実際にはこの数字が正しいかどうかは不明なようです。日本での20万人の拡散元はクローズアップ現代+の「“行方不明児20万人”の衝撃 ~中国 多発する誘拐~」あたりでしょう*4。ただ2018年の文春の記事を見ると中国で1年間に立件される子どもや女性の誘拐事件は約2万件、AFPの記事では2013年の10月までで2万4000人、これらが氷山の一角とはいえ20万はやや多い気がします。なお中国当局が数字を公表していないから生じる問題ですが、20万という数字については中華人民共和国国営新聞のLegal Dailyが出典のこちらの記事(中国語)で公安当局はこの数字は完全に噂だと否定しています。信頼性は各自で判断をば。

■中国における誘拐の理由
 ポピュラーと言って良いのか分かりませんが、AFPの記事を読むと中国において児童が誘拐される理由は子どもに恵まれない夫婦や跡継ぎの男子がいない農家が買い求めるからです。また現在は是正されているとも言いますが誘拐した子どもを孤児院がもらい受けて外国に養子として売るであったり、子どもに物乞いをさせるというパターンもあるとされます。臓器売買が主目的の児童誘拐がないとは断言できない、というよりも「ある」方の可能性が高いでしょう。しかしそれが主原因で蔓延っている、とはいえないと考えます。少なくとも今回の記事にタイトルとして使用するのは中国人嫌悪とまとめサイトのPV稼ぎの為の扇動と捉えた方が良い。金稼ぎの為に感情を良いように弄ばれてる。


 今回の件で言えば未成年者の略取誘拐自体は増加が見受けられるのでその背景にあるものを探っていくのは報道機関の役目ではあるでしょう。しかし、根拠のない個人の偏見に基づく憶測を報道するのは報道機関の役目ではありません。デマアカウントがデマに乗っかって言ってる聞くに値しない戯言です。

*1:子どもの誘拐と臓器売買について有名な国を挙げるとしたらレバノンなどが存在します。これについてはNHKが放映した「レバノンからのSOS」で衝撃ともいえるレベルの放送内容が為されています。

*2:大体「誘拐」がこの「行方不明」資料に換算されるのかも分からない。

*3:脇道ですが警察庁には9歳以下について所在確認等の状況が欲しいと打診したところそのようなデータはないと言われました。これがあるとより行方不明児童の状況が分かってよかったのに残念極まりない。

*4:NHKが根拠レスの数字を使用したのではなく、中国メディアも使用していたので数字を使ったという所でしょう。軽率ではあるかもしれませんが、そこまでの非があるかは微妙。

甘利明氏が医療用ガウンは100%中国依存というデマではないか

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 医療用ガウンですがそのHSコードは「6210.10211」(ガウン(医療用、介護用その他の衛生管理用に供する種類のものに限る。) )になるかと思われます。

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※出典:https://www.customs.go.jp/tariff/2021_4/data/j_62.htm

このHSコードを貿易統計で確認すると2021年の輸入国は以下の様になります。

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Unit1「NO」は枚数でQuantity1の値を見ると中国からは約1900万枚輸入されておりその量は圧倒的ですが、インドネシアベトナムカンボジア、タイ併せて約1300万枚ほど輸入されています。中国からの輸入量は枚数単位で言えば過半数を超えていますが、とはいえ中国に100%依存と言えるほどの量では決してンありません*1。なお2020年の輸入量に限って言えばHSコード「6210.10211」が2021年に新設されたものであるために詳細は分かりませんが、上記の親番号(?)にあたるであろう「6210.10210」(人造繊維製のもの)を見る限りは2021年と同じような輸入国構成ですので中国以外からも輸入していたと考えるべきでしょう。ちなみに2021年には「防護服」というカテゴリーも出来ていますが、当然ながらこちらも中国以外からの輸入があります。
 また国産も存在していますし、去年には新型コロナウイルスの影響を受けて帝人がガウンの型紙をネット上で公開したこともニュースになり多少は話題になりました。

大手繊維メーカーの帝人は来月から国内の工場で月に5万着の生産を行うことになりました。帝人はほかの中小の事業者なども生産に参入できるよう、近くガウンの型紙をネット上で公開することにしています。
帝人が医療用ガウン 月5万着生産へ 2020年4月15日

東レにおいては以下の様に経済産業省から感謝状をもらっています。

東レはこのたび、日本政府の要請に基づく医療用ガウン納入に対して、12月21日に経済産業省から、「新型コロナウイルス感染症の流行に際し、医療物資の増産に取り組み、需要の改善を通じて国民生活の安定に大きく貢献した」として感謝状が授与されました。
アイソレーションガウン供給に対して経済産業省から感謝状が授与されました 2021年2月9日

上記の感謝状は三井化学ももらっており、国内でも生産している事が分かります。東レに関してはどこの工場で作ったのか書いておりませんが、三井化学に関しては国内工場での生産であることが分かります。これらの国内企業による供給は臨時的なもんであったり、実は海外からの輸入分が含まれている可能性*2は無きにしも非ずですが、しかしこれらの動きを見ても中国から100%依存というのは国内企業に対して酷薄な態度でしょう。
 なお国内で作るべしという声もあるのでしょうが、国内で作ったとしても中国産に価格で負けるので果たして国内に生産をシフトした場合にそれを維持できるかは不明。以下の様な報道もありましたが実際に「競争」したら価格面から勝つのは難しい。

価格が3分の1程度の中国産ガウンが安定して供給されるようになったことに加えて、当初は随意契約を結んでいた県が競争入札に切り替えたことが大きく影響しました。 「医療用ガウン」国内生産したのに“在庫11万枚”…安い中国製が選ばれ生産中止検討 2020年12月7日

 一国依存体制が持続的な意味で考え直した方が良いというのは理解できなくはないですが、しかしながら医療用ガウンは中国以外からも輸入されており甘利明氏の言っている中国に100%依存という数字がどこから来たのか謎で、とにもかくにも事実に反します。事実に反した事を言っている人間はそのデータの読み方、若しくは周辺ブレーンの知識の拙さ、若しくは単純な扇動なのかもしれませんが、はっきり言って信用に値しません。デマを吐くような人間の語る安全保障ほど国にとっての安全保障を脅かすものはない。

*1:Unit2のKGはキログラムなので重さ単位だとちゅごくの量は過半数以下を割ります。枚数と重さでなぜ結構な乖離があるのが何故だか不明です。それと金額でみると中国産がかなり安いことも分かります。

*2:例えば積水化学は中国の工場で生産したものらしい。https://jocr.jp/raditopi/2020/07/04/90997/

自民党が規制改革を阻む要因として「弱者への過剰な配慮」と書いてた

 メモ的なもの。    2021年5月11日に自由民主党行政改革推進本部の規制改革等に関するプロジェクトチームが「デジタル化社会からデータ利用型社会へ(中間報告)」という資料を自民党HPにアップロードしてたので、読んでたんですが気になることが書いてあったので忘備録的に記事としてあげておきます。
 まずこの資料の提言の内容は以下の5つです。

1.データ利用型社会への改革
2.規制改革推進のための論点整理
3.データ利用の阻害要因
4.各論①:カーボンニュートラルの推進
5.各論②:自治体における計画策定の負担軽減

各々については各自が気になる部分を読んでもらうとして、個人的に気になったのが「2.規制改革推進のための論点整理」での以下の記述。

(1) 改革を阻む諸要因
規制改革を阻む諸要因は「縦割りの弊害」「既得権益の保護」「弱者への過剰な配慮」「改革アプローチの間違い」など多様である。現状の取り組みではこれらの要因を含む改革は敬遠されがちで整理が進まない。規制そのものに合理性があるものを除いて、各要因の体系的な整理を進めた上で規制改革を推進すべきである。

この項目は規制改革を推進するためにどのような仕組みを構築するかという様な内容ですが、その中に規制改革阻害要因として「弱者への過剰な配慮」という概念が自民党にある事が吐露されています。その他の阻害要因として書かれている「縦割弊害、既得権益保護、アプローチの間違い」というある種のテンプレ群と比べても異質です。素直にこれを読めば弱者を守るための規制を改革によって打破すると読み取れるもの。弱者への「過剰な」配慮が駄目という話はある種の人には受けが良いとは考えられますが、資料には具体例が一つも示されておらず何を念頭に置いているかはわかりません。しかし、自民党は過去に生活保護バッシングを仕掛けたりヘイトスピーチLGBT法案における「差別」に対する姿勢などを見ると自民党内における「弱者への過剰な配慮」のレベルは本当に「過剰」であるかどうか、疑念を抱かざるを得ません。自民党がそういった価値観を持っている事はネット右派、新自由主義冷笑系の支持者を見てると不思議ではないですが、提言内容に書かれたことは一線を越えたかもしれません。中間提言とはいえ、これがこのまま削除されず完成したら政府へこの文言が入った提言を渡すことにもなるわけですから。

 以下からは脇道ですが、こんなことも中間提言には書かれています。

一方、個人情報を保護するあまり、まずはデータ利活用の抑制的なガイドラインによって規制するなど段階的な改革手法がとられ、データの利活用がそこで止まってしまうようでは問題である。むしろ、公益に資するデータは精査の上、積極的にオープンにして利用を進めていくべきである。

個人情報保護についても規制改革の対象になっているのでしょう。「デジタル改革関連法」でも個人情報が問題の焦点の一つになっていますし。

チャヴ 弱者を敵視する社会

チャヴ 弱者を敵視する社会

4月30日時点での新型コロナ用ワクチンは輸出【承認】5230万回、日本【到着】2800万回分

河野太郎行政改革担当相(ワクチン担当相)は数字には誤りがあるとツイッターで指摘。同相のオフィスは30日に電子メールで、日本に届いているファイザー製ワクチンは約2800万回分だと説明した。
日本のワクチン接種遅れに批判強まる-大量のEU製が承認済みと発覚 - Bloomberg

この情報から現在4月30日時点で日本に到着しているファイザー製ワクチンが2800万回*1であることが分かります。3月までのワクチン輸入量が纏まっているFlyteamの情報によれば3月末には550万回分のワクチンが到着しており、4月だけで2250万回分のワクチンが到着していることになります。

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また4月以降の予定を見ると週に300万回分ずつ積みあがっていく、5月1週には1000万回分で2800万回分が来るという予定。河野大臣側の説明にある2800万回という数字は予定よりも1週間ほど早い達成と考えていいのかもしれません。なお表の輸送日が3月22日までは日付のみ、3月29日から末尾に「~の週」とつくようになったのはこの週から週一回の空輸便が複数回*2になったからです。
 しかし情報の透明性という意味では4月中にどれくらいのワクチンが来たかという情報は一切報道されず、それは翻って行政側が何万回分到着するというアナウンスをしてなかったからだと考えられますし、まずそこが問題。それはさておき。

EUからのワクチン承認5230万回分について

 さて、それでもまだEU情報からするとワクチン2430万回分以上の差があり、とてつもなく大きな乖離が存在します。ちなみにこの5000万回報道がある前からブルームバーグでは定期的にこの報道をしており、

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3月9日時点だと約300万回
3月24日時点だと約540万回
4月6日時点だと約1700万回
4月19日時点だと約5200万回

以上のような結果になっています。見ればわかるように3月24日時点では540万回。日本の報道では3月末に550万回なので日付の差を考えても3月時点ではEUの承認と日本の到着数に差がないことが分かります。差が出てきた、というか日本への輸出承認量が大幅に増えたのは4月。ちなみに実はEUの公式情報でも幾度かワクチン承認情報が流れていて、例えば3月11日の「欧州委員会、新型コロナワクチンの輸出透明性・承認メカニズムを延長」を読むと「日本(270万回分)」と書かれていたりして、5000万回というインパクトのある数字だから今回話題になったものの、この件は以前からちょくちょくと公的な情報は出ていました。
 で、幾度か書いていますがEU側の情報は「承認」であって「輸出」ではありません。現在EUは6月末*3まで「ワクチン輸出承認制度」を設けており、例外を除きEU域外への輸出は承認が必要になっています。そしてこの輸出が承認された回数が5230万回となります。そして実際の手引きが書かれている「EXPORT REQUIREMENTS FOR COVID-19 VACCINES FREQUENTLY ASKED QUESTIONS」にはこの承認手続きに関してのQ&Aが記述されています。それによると承認は基本は1営業日、延びても2営業日程度でOKが出るものです。そして承認数ですが最後に申請書のテンプレートが記載されており、そこには数を記入する欄が存在。

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つまりは上記の申請書で書かれた数がそのまま承認された数、今回で言えば幾度もの申請が積もり積もって5230万回となります。承認されてから「出荷」となります。そして出荷を請け負うのは当然製薬会社側です。

Q5. EU域外、特に日本へのワクチン輸出の状況を教えてください
EUは日本に対して、4月27日までに約5,230万回分のワクチンの輸出を承認しています(欧州委員会の情報。出荷は各製薬会社の責任で行われる)。日本は現在、EU域内で製造されたワクチンの主要輸出先の一つです。
EU MAG EUの新型コロナウイルス感染症ワクチンに関する取り組みを教えてください

上記の様に駐日欧州連合も記述しています。なのでここら辺を整理します。

ファイザー製ワクチン輸出フロー

1)製薬会社が欧州委員会に輸出許可を申請(この時に輸出数記入)
 ↓
2)欧州委員会が輸出を「承認」(4月30日時点で5230万回。1~2営業日)
 ↓
3)製薬会社が「出荷」
 ↓
4)輸送会社のベルギー内での配送
 ↓
5)日本への空輸
 ↓
6)日本への「到着」(4月30日時点で約2800万回

となるかと考えます。現状、ファイザーが承認から出荷までどれくらいかかるか不明であるためこの時点での出荷が滞っている可能性は考えられなくはないですが、それよりも可能性が高いのが日本の輸送能力による目詰まりです。Flyteamにある輸送予定表を信じれば4月中は1週300万回程度の輸送能力、方やEUでの承認数は4月6日で1700万回、4月19日が5200万回とたった2週足らずで3500万回以上の増加となっています。事前の予定表で輸送能力を組んでいた場合はどう考えても対処できず、対処できなかった場合は出荷を控える、若しくは出荷したものをどこかで保管の二択のはずで、日本に届くことはなく塩漬け状態の様になっている可能性が高いです。フローで言え(3)、(4)の時点がうまく機能してない。

4月19日の会談後に増えない承認数

 上記の輸送能力による目詰まりは憶測になりますし、そもそもこのファイザー製ワクチンの急激な承認数増加が何故発生したのかがよくわかりません。3月8日の記事「ファイザー「首相と交渉を」 返答に関係者絶句、政府主導権取れず難航」において、ファイザーが先行による独占的な利益の確定を急ぐ必要が出た、そこに日本が乗って高値をつかまされたという考えも提示されていますが、どこまで信じて良いかも微妙。ところで菅首相がファイザーの会長と電話会談したのは4月19日で今回の増加の件とは別なのですが、この19日の会談で日本の対象者に対して確実にワクチンを供給できるよう追加供給を要請したとあります。ただ19日時点で5230万回の承認を得てましたが、27日時点でも5230万回承認*4。会談から8日経過してあれほど増加していた承認数が一切増加してないの若干皮肉だなと思いますが、それとは別にこの承認数の増えなさは輸送能力キャパオーバーによる輸出数との乖離が激しすぎてまずは承認数と輸出数を埋めることを優先して一旦承認をやめたのかもしれません。承認から出荷まで果たして期限があるのかもよくわからないし、完全な憶測ですが。

事実誤認の批判

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 上記がバズッてたので一応指摘しときます。まずワクチンが6か月ほどの保存期間というのが前提にあり、8月末までに2月に来たワクチンを使い切らないと廃棄しなくてはならない、というツイートです。何故か2月に5000万回来たような書きぶりですが、3月11日時点でのEUによるワクチン承認数は270万です。で、実際に日本に来てたのもその時期はそれくらい。もう日本の摂取量は4月末時点で約350万なので2月に来た分は使い切ってるはずです。今使ってるのは3月分だろうし、大量に来たのは4月。なんで使い切れずに廃棄となる場合は10月末ですね。確かに使い切れずに大量廃棄になったら大問題ですが、時系列が乱れてて批判が批判として機能していません。批判は大事ですが誤った批判は誤認を広め、時にデマ、陰謀論になりえますのでご用心を*5

上記とは別の批判点

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 ワクチン担当相なら数字が違うのではなく、どう違うのか言いましょう。ツイッターで「違いますね」と引用することがワクチン担当相の仕事じゃないでしょ。何が「違う」のか。もしかしてだけど、EUの承認と日本の到着数の違いをワクチン担当相ともあろうお方が認識していなかったのか。もしもそうならば大臣として現状の認識に問題があります。そしてEUの公的情報に対して大臣がさも喧嘩を売ってると捉えかねないツイートも問題。いらんところで摩擦を起こしてどうするのか。
 大体問題の少なからずは日本のワクチン確保数がよくわからないことにあります。3月までは報道ベースではありましたが4月以降は第11便を除いてほぼ報道皆無状態。これは行政が報道に情報を提供しているからこそ成り立つ報道の類であり、そう考えれば行政側が情報の提供を止めたことに起因するはずです。そしてワクチンの到着数は何故か厚労省首相官邸いずれのコロナ用ページに記載されていません。情報公開、透明性が死んでる。承認数までは書く必要はないでしょうけど到着数は書けたはずで、それを書いていれば多少は違った。あとブルームバーグン記事に同相のオフィスの電子メールで答えたとあるけど、同相のオフィスが河野事務所的な話ならばその電子メールは公的情報開示じゃないのでは。はっきり言ってふざけた話。
 それと5000万回がすでに日本に入ってて廃棄云々の話にはあまり与しませんが、ただ4月30日時点で約2800万回のワクチンが日本に届いており、しかし接種は約350万回って届いたワクチンに対して摂取回数がかなり低い。これは接種の為のロジティクスを構築しきれなかったという証左。ワクチンがコロナ禍の解決策の様に扱っていたはずなのに、そのための摂取に関する仕組みがグダグダな感じなのは行政能力が低いと思わざるを得ない。利権が絡まないと能力が発揮できないのかな。ある意味で今回の件はワクチン獲得競争に勝ったともいえるのにそれを思わせない体たらくではないかと、現状。
 そして承認回数と到着回数の乖離も輸送能力の問題ならば輸送システムの構築に失敗したことになる。ファイザーが予想を大幅に超える輸出承認数を取ってきてくれたならばともかく(そんなことあるのか疑問だけど)。ワクチン到着数と事前の予定表を考えればやや前倒しで事は進み、ある意味順調とも言えるけれど承認数と到着数の乖離はいずれかの場所で何らかの問題が起こっている事はありえるかなと。

 現状、来る前にも来た後もグダグダ、日本。大臣の説明も下手。これもまた危機管理能力、というか一昔前は政権担当能力って言われてたんだろうけど、お世辞にもあるとは思えず、欠如してる。

武器としての情報公開 (ちくま新書)

武器としての情報公開 (ちくま新書)

*1:これが1瓶5回計算なのか、6回計算なのかは不明。

*2:何回か不明、ただ第7便が3/22、第11便が3/29であることを考えれば1週間に4便程度、4月のワクチン増加量を考えたらも少し多い可能性もあり

*3:当初は3月末までだったが期間が延長されました。

*4:ともにhttps://eeas.europa.eu/delegations/japan/96795/node/96795_ja による。同ページで数字部分だけを更新するというあまり宜しくない方法で更新してる。

*5:陰謀論的にはこの余ったワクチンをどこかの市場に流して~、と考えられなくもないけど、流石にそこには行きつきたくない。

バリアフリー化費用で運賃値上げは数年前からの既定路線です

 であったり*1

などなど。テレビ朝日による「鉄道バリアフリー化費用 運賃に上乗せ検討 国交省」を受けての反応がありました。なお記事は今現在削除されているのでアーカイブから記事を引っ張てきます。概要は以下の通り。

国土交通省が、鉄道のバリアフリー化にかかる費用を運賃に上乗せする仕組みを導入する方向で検討していることが分かりました。
 
 今後5年間の交通政策の方向性を示す第2次交通政策基本計画の素案には、「都市部において、利用者の薄く広い負担によりバリアフリー化を進める枠組みを構築する」とあります。
鉄道バリアフリー化費用 運賃に上乗せ検討 国交省|テレ朝news-テレビ朝日のニュースサイト

 私自身は伊是名氏の話を全然追っていませんし、そもそもこの運賃値上げに関しては伊是名氏も社民党も一切関係ないので言及はしません。さてもう結論は書きましたが、この運賃の値上げにはサヨクも車椅子クレーマーなる人物も社民党も関係なく、自民党政権下において以前からの既定路線です。

第2次交通政策基本計画の素案

 まず記事を読めばわかるようにこれは「第2次交通政策基本計画の素案」です。この素案自体が出たのが「第10回交通政策基本計画小委員会」で開催日は2021年3月29日。伊是名氏のブログで波紋を読んだ記事は4月4日です。そしてそこには以下のような記述があります*2

○ 高齢者、障害者を含む全ての利用者が安全かつ円滑に鉄道施設を利用し得るよう、都市部において利用者の薄く広い負担によりバリアフリー化を進める枠組みを構築するとともに、地方部において既存の支援措置を重点化することにより、従来を大幅に上回るペースで全国の鉄道施設のバリアフリー化を加速化する。
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001397812.pdf

以上の様に3月時点の、それも議論の遡上ではなく「素案」の時点で利用者負担は明記されています。この時点で伊是名氏や社民党がこの運賃値上げに関して一切関係ないことがわかります。ちなみに案の概要でも以下のように記述。

出典:https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001397811.pdf

また2021年2月1日の第9回の議事録では以下のような記述もあります。

バリアフリー化というのは、年齢や障害の有無にかかわらず、全ての利用者が安全・安心かつ円滑に移動できる環境の整備に資するものでありまして、先送りすることなく着実に進めていく必要があると認識してございます。そのための財源をどのように確保していくかについては、さきの臨時国会で赤羽大臣からも答弁を申し上げておりますとおり、利用者負担を含めた、聖域なく検討を進めていく必要があるということでございまして、(以下略)
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001387772.pdf

以上の様に大臣の答弁でも利用者負担を含めた検討を進めていく必要があると記述されており、そして当の赤羽国交大臣は国会で今年3月に以下の様な答弁してます*3

赤羽一嘉
バリアフリーを幅広く展開してほしいという強い要望もありますので、こうした財源についても、利用者負担も含めてちょっと幅広く検討も始めなければいけないのではないかというふうに思っております。
第204回国会 参議院 国土交通委員会 第2号 令和3年3月16日

以上の様に伊是名氏の話が話題になる前のここ最近の動きでさえ利用者負担 (運賃の値上げ)についての話は出ており、伊是名氏の行動が利用者負担に影響を与えた可能性は過大評価も良い所であり、影響は微塵もありません。なお念のために書いておきますが伊是名氏の様な行動が無駄だったという意見に与するものではありません。世界は粛々と変わる時もあるけれど、しかしキッカケとしてはある種の行為や意思表明の胎動による表面化がなされない限り変わらないので。だがしかし、この話については時系列的な因果関係はありません。

「都市鉄道における利用者ニーズの高度化等に対応した施設整備促進に関する検討会」

 そして運賃の値上げに関してはここ最近の第2次交通政策基本計画からの話ではなく以前からの議論においてもされています。例を挙げれば2017年から開催されている「都市鉄道における利用者ニーズの高度化等に対応した施設整備促進に関する検討会」。この検討会の2018年9月の報告書(概要)には以下のようにあります。

利用者負担制度の検討において「更なるバリアフリー加速化料金(仮称)(案)」とある様に今回の件とドンピシャ。そしてこの報告書は9月ですが、中間とりまとめは2月。そしておそらくこの動きを受けて3月に日経新聞で以下のような記事が出ています。

駅のバリアフリー化にかかる費用の一部を鉄道会社が運賃に上乗せできる制度の導入を検討
駅のバリアフリー整備費、運賃に上乗せへ 国交省検討 - 日本経済新聞

つまりは2018年時点でこのバリアフリー化の利用者負担という名の運賃値上げについてはほぼほぼ既定路線になっていることがわかります*4。またこれらの動きについてはバリアフリー改正法やユニバーサルデザイン 2020 行動計画 なども関わってくるものでしょう。特にユニバーサルデザイン2020行動計画については東京五輪の影響が指摘できます。

東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会推進本部の下、2020年東京オリンピックパラリンピック競技大会開催に向け、全国展開を見据えつつ、世界に誇れる水準でユニバーサルデザイン化された公共施設・交通インフラを整備するとともに、心のバリアフリーを推進することにより、共生社会を実現する必要があります。
ユニバーサルデザイン2020関係閣僚会議

運賃値上げは(額にもよるけど)賛同の方が多い

 最後に運賃値上げですが基本、賛成派の方が多いです。調査は「高度なバリアフリーに係る新たな利用者負担制度に関するアンケート調査結果について」から。

まずバリアフリーそのものについては当然ながら賛成派の方が圧倒的に多いです。

そして利用者負担については一部・全額にかかわらず賛成の方が多く、また反対派かなりの少数派であることがわかります。

ちなみに10円程度の上乗せなら妥当とする回答が過半数以上であり、現実的に導入するならここら辺になりそう?  なお「仮想的市場評価法(CVM)の調査概要」というのもあり、そちらではもうちょっとだけ高い支払意思額が示されています。

また別の調査「鉄道バリアフリー施設設備の効果と費用負担のあり方」においても運賃上乗せへの賛成は多く、仮に運賃上乗せが現実化した場合には額にもよるでしょうがツイッターでは今回のような声の大きい反対者が散見される可能性はあるでしょうが、実際には賛成の方が多いという事態にはなりそう。


 事程左様にバリアフリーの為の運賃値上げについては数年前から議論されてきた話であり何も突飛の話ではありません。反対するならするで良いけれど、事実を弁えましょう。今の彼らはデマ拡散屋。



■お布施用ページ

note.com

*1:どうでもいい話ですが、黒瀬氏、シェアニュースジャパンから私はブロックされてるのでこういう時に動きを察知できない。

*2:第10回における「素案」とパブコメサイトにおける素案がありますが、今回は第10回にリンクされている素案を使用。

*3:ホームドアについての質問に対しての答えであり車いすの件についてとは若干異なりますが、バリアフリーという枠組みでは同様であり、鉄道会社の認識においてもホームドアはアフリーの範疇ですので赤羽大臣の言う「バリアフリー」には今回の件も含まれていると考えていいかと考えます。

*4:議論自体は2017年11月の第5回で利用者負担に異論はないとなっています。それについての資料はこちら。事業者は当然ですが消費者団体も賛意を示しています。