電脳塵芥

四方山雑記

マスクの日本の生産量とか中国などからの輸入量について

 マスクが市場に流通し始めて値下がりして来てます。それらの何故かの話は下記記事とかで参照してもらうとして。

マスクバブル崩壊! 4大スポットではついに50枚入りで千円台も アベノマスク配布はたった4% (1/5) 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)
1枚140円→36円に大暴落!新大久保の闇マスク価格推移をまとめてみた
世界はアベノマスクだけで動いていない

手短に日本のマスク状況などを置いておきます。

【国内生産】

国内メーカーは、24時間体制で、通常の3倍の増産を継続しています。 マスクや消毒液やトイレットペーパーの状況 ~不足を解消するために官民連携して対応中です~ (METI/経済産業省)

通常時の月産枚数は約9千万枚。単純計算で2億7千万枚ですが、東京新聞の記事によると設備投資への補助金などもあって3月時点での国内マスク生産量は3.6億枚となっています。また上記の経産省HPで確認できますが「マスク生産設備導入支援事業費補助金」に計15社の企業が採択されています。それらの生産能力は、

・2月28日採択:3件 合計1500万枚規模
・3月13日採択:7件 合計約5000万枚規模
・3月25日採択:3件 約300万枚規模
・4月27日採択:3件 約2,600万枚規模

以上16件で合計約9400万枚規模の増産体制となっています。最後の4月27日採択の生産体制が5月現在に効果をあげるとは考えにくいですが、それ以前の6800万枚分は市場に出回り始めていると考えて良いかと考えます。3月3.6億枚と併せて考えれば4月は国内生産量だけで4億枚以上と考えてもそうおかしくはありません。2018年のマスク消費量が55億枚なので月あたりの消費量4.5億枚。この数字は輸入分を含めたものですが、国内生産だけでその数字に追いつく可能性もあるくらいに国内生産量は上がっている様です。

【輸入分】
不織布マスクをメインにピックアップします。まず不織布マスクのHSコードは「6307.90-029」。これには不織布マスク以外のスーツカバーなどの他の品目も入る為に数値イコール不織布マスクの輸入量を表すものではないので注意が必要ですが、このHSコードを見る事によって輸入量の増減を確認可能です。

f:id:nou_yunyun:20200510234905j:plain

輸入量は上記の表のとおり。各月の合計輸入量は、

1月 1万5157トン
2月 4732トン
3月 8697トン

となります。不織布マスク(を含む)の輸入先は中国が特に多く、1月1万3393トンが2月に3439トン、3月に7001トンと大きく上下しています。また輸入額を見ればわかる様に3月にマスクの値段が高騰していることが分かります。で、4月の輸入量はまだ貿易統計が更新されていないので分かりませんが、中国の税関HPに以下の様な記述があります。

税関統計によれば、医薬品の輸出規模は着実に拡大している。4月24日、中国は10億6千万枚のマスクを輸出しました。これは、3月31日の発表が実施される前の2億2,400万枚から3.7倍の増加です。
(中略)
税関の統計によると、3月1日から4月25日までに、国は211億のマスクと防護服を含む、合計550億元の主要な流行防止材料を輸出したと述べた。 http://www.customs.gov.cn//customs/xwfb34/mtjj35/3026425/index.html
※自動翻訳

という様に4月から輸出が大幅に増加していることが伺えます。10億枚6千万枚のマスクが全て日本に来ているわけではありませんが、とはいえ日本の貿易統計上での増加を考えれば4月は3月よりもさらに増えていることだけは疑いようもありません。またベトナムなど、東南アジアからの輸出の増加も考えられるでしょうから相当数の輸入量があるはずです。何億枚と断言する事は不可能とは言え先述した東京新聞記事では3月時点で輸入枚数は2.4億枚。憶測の域を出る事は出来ませんが4月に3億枚以上になっていてもなんら不思議ではない数ではないかと。


 何億枚という数字が表に出てこないので何とも言えませんが、4月は7億枚以上の供給があってもおかしくありません。また上記の輸入分は不織布マスクに限っているので布マスクなどの他のマスクを加えればもう少し数字に上乗せされます。
 ってのを考えると供給量が多くなってマスクが市場に出て値段も下がったと考えるのが妥当な訳で。一部でアベノマスクがマスクの値段を下げたという与太話が流布されていますが、アベノマスクは5月11日現在東京のごく一部での配布でしかなくマスクの供給そのものへの寄与は薄いと言わざる負えません。マスク不足の対応策ですし一切値下げと無関係とまでは言わないでいおきますが、そもそも市場に出ておらず東京以外では配られていない1世帯2枚のマスク如きで消費者のマスク需要は満たせはしないであろうし、市場で日々消費されるマスクの値段を大きく下げているというのはまとめサイトの見過ぎじゃないかと。あそこら辺にファクトはない。

マスクの品格

マスクの品格

  • 作者:大西 一成
  • 発売日: 2019/11/28
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

「貯蓄ゼロ世帯」の推移について

【更新】以下の記事の方が詳しいです。

nou-yunyun.hatenablog.com


 という画像がツイッターで出回っています。この出典は画像下部にある様に「2018年2月1日」の参院予算委員会における山本太郎氏が用いたものであり、データ出典は金融広報中央委員会における「家計の金融行動に関する世論調査[単身世帯調査]」>「金融資産の有無」となります。まずこのデータですが「単身世帯」限定であり「二人以上の世帯」ではない事に留意が必要です。ではこの2017年時点での「二人以上の世帯」ではどうであったか。

上記の「保有していない」という欄が「貯蓄ゼロ世帯」となる層です。グラフからもわかる通り「二人以上の世帯」では貯蓄ゼロ世帯が単身世帯よりも少なくなります。当然と言えば当然ではありますが。あとこれはなぜだかは分かりませんが、二入上の世帯には70歳以上がありますが単身世帯は60歳代のみで70歳以上は有りません。
 さて、山本太郎氏の使用した表ですが「単身者世帯」という出典は書かれているものの非常に見にくく、この表を見る人々に全世帯の貯蓄ゼロ世帯が増えたという誤謬を生みかねない危うい表であるという指摘は免れえないものではあると考えます。単身者世帯で貯蓄ゼロが増えているのは事実ですが、事実の提示の仕方が不味いです。

 で、ここからが本題。
 上記の表は「2017年」の貯蓄ゼロ世帯です。では最近はどうなっているのか。2018,2019年の単身者世帯、二人以上の世帯を見ていきます。

◆二人以上の世帯 2017~2019年の貯蓄ゼロ世帯推移

◆単身世帯 2017~2019年の貯蓄ゼロ世帯推移


 以上の様に「2人以上世帯」の「70歳以上」以外は2017年の貯蓄ゼロ世帯よりも減少が見受けられます。2017年から2019年にかけて貯蓄ゼロ世帯が15%以上減少している年代も見受けられます。ついでに全世代でのグラフ推移を見てみると、

◆二人以上の世帯(全年代) 2007~2019年の貯蓄ゼロ世帯推移

◆単身世帯(全年代) 2007~2019年の貯蓄ゼロ世帯推移

という様にリーマンショック時の影響から貯蓄ゼロ世帯が増え始め、民主党政権の影響なのか2012年にやや減少、その後に安倍政権後の2013年から貯蓄ゼロ世帯が増加後に停滞、そして2017年から2018年にかけて一気に貯蓄ゼロ世帯の現象が確認できます。







 2017-2018の間で下がりすぎじゃない?

 貯蓄ゼロ世帯が一気に増えるのは不景気などの到来で理解できますが、貯蓄ゼロ世帯の一気の減少は相当な好景気が来なければ理解しにくい現象です。そして2017~2018年の間にそうなった記憶はほぼない。じゃあ、なぜこんな下がったのか。答えは簡単で、

上記は「預貯金口座または証券会社等の口座の有無」の有無の項目ですが、2017年と2018年の間に「一点鎖線」が存在しており、そして資料上部には「(※)一点鎖線は、データが不連続であることを示す。」とあります。つまりは2017年と2018年でデータのとり方が変わり、データに連続性がなくなりました。上記の口座有無でも2017年で「89.4」、2018年で「99.4」と到底連続性のあるデータとは思えない増加の仕方をしています。連続性がないから当然なのですが。これと同じことが貯蓄ゼロ世帯に関しても起こっており数値が大きく変わっています。具体的な変更点は、

(注1)金融資産の有無は、2017年までは、回答者が「保有している」と「保有していない」から選択。2018年からは、a.問1(b)で10(いずれも保有していない)を選択した世帯と、b.問1(b)で1(預貯金)のみを選択し、問2(a)で1(預貯金の合計残高)の「うち運用または将来の備え」がゼロないし無回答の世帯をそれぞれ「金融資産を保有していない世帯」(金融資産非保有世帯)としている。

 2017年まで「金融資産の有無」は回答者の「保有/非保有」という二択のみでの判断でした。しかし2018年からは、


・問1(b)あなたが、現在保有している金融商品(外貨建金融商品を含めます)について、その番号に○印をつけてください。
 ⇒ 10 いずれも保有していない

・問2(a)現在の金融商品別残高(現金を除き、外貨建金融商品を含めます)およびその合計額はどのくらいですか。
 ⇒ 無回答、もしくはゼロと回答


以上の二つを満たす世帯が金融資産ゼロ=貯蓄ゼロ世帯と算出されるようなりました。設問の仕方はより詳細に聞くようになっている為に精度は上がったと考えて良いかと思います。しかしながら、データの連続性は無くなりました
 このデータの不連続化は2003~2004、2006~2007でも発生しており、2017~2018だけで発生したことではありません。また精度が高くなった可能性がある為に否定する変更要素ではないとも考えます。でも何で変更したのかが良く分かりません。何で変わったんですかね。


 おまけ。
 この調査では貯蓄ゼロ世帯という括りの他に2016年から「口座は保有しているが、現在、残高はない」という調査もあります。それを最後に貼っておきます。
※当然、この設問も2017-2018年の間に設問が変更されてデータの不連続化が発生しています。なので、そこには留意をお願いします。変更内容は以下の通り。

(注2)口座の有無の選択肢は、2015年までと2018年からは、「保有している」と「保有していない」により行っている。2018年からの「口座を保有していて、現在、残高がある」と「口座は保有しているが、現在、残高はない」の振り分けは、問1(a)で1(口座を保有している)を選択した金融資産非保有世帯について、問2(a)1(預貯金の合計残高)の残高有無により行っている。

◆二人以上の世帯 2017~2019年の「口座は保有しているが、現在、残高はない」

◆単身世帯 2017~2019年の「口座は保有しているが、現在、残高はない」

 二人以上の世帯は2018~2019で増えている世代もありますが、2017年を基準にすれば減少していることは間違いありません。しかし単身世帯は基本的に上昇傾向である事が伺えます。
 データの不連続化のある2017~2018は置いといて、二人以上の世帯を見ると年代によっては一気に残高ゼロ割合が上下しすぎなような気もするデータではあったりして、それをどう考えればいいのかは私にはわかりませんがそれはともかく*1。昨今の外出自粛状況を考えればこの残高ゼロ世代は大きな影響を受けることは間違いありませんし、残高ゼロ世代の増加が発生する可能性の方が高い。この層を救う手立てがほしい。そしてそれは政治の役割。

*1:データの不連続化が発生しても大きく減少した年代がある一方、あまり変わらない年代もあったりとそもそもこの調査の信用性みたいなのを考えたりしちゃいます。ただ、この調査の正当性を調べられるほどの知識はないので、もしも暇ならだれかやってください……

安倍首相の私邸での自由時間は多分たくさんあります

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 小池晃氏の発言は甚だ品位に欠けるものであると考えますが、それはさておきこのツイートでは「総理は愛犬に会いに公邸から私邸へ戻る日曜の僅かな時を大切」と言っている。一国の総理、そして現在の危機的事態、確かに国難といって良いでしょう。では安倍首相ってそんな私邸にいる時間は僅かなのか。実態がどうなのかを首相動静から見ていきます。
 参照ページは時事通信の首相動静2月3月4月です。

◆2月
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2月の私邸日数は20、公邸日数は9です。

◆3月
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3月の私邸日数は22、公邸日数は8、ホテル日数は1です。なお本グラフは24時止めにしている為に3月16日はグラフ上24時になっていますが、この日の公邸着時間は24時40分となります。

◆4月
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4月13日現在、毎日私邸に帰っています。


 以上の様に安倍首相は土日に限らずかなりの割合で私邸に帰っています。「私邸>公邸」です。なお公邸に帰った場合はその後に人が訪れますが、私邸ではそのようなことはありません。帰宅時間にしても4月を見ると20時前くらいに帰宅するのがほとんどですので犬と戯れることも可能でしょう。そもそも安倍首相の動静にある程度詳しい人ならご存じでしょうが、安倍首相は私邸によく帰る首相です
 思想信条は自由だけれど、国難のこの時期に首相の動静でデマに等しいことを言うのは如何なものかなと。

韓国や台湾におけるマスクの供給対策について

 全世帯への布マスク配布が近しい昨今なので韓国や台湾ではマスク需給についてどうしているかの記事なり~。なお記事は自動翻訳なので悪しからず。

◆韓国の状況
 当然ながら韓国でもマスクの品薄が発生してます。あちらの記事を見ると3月中旬までは全国的に品薄状態が発生しており、このような記事も3月2日に出ています。

マスク日の供給量わずか1,000万枚...総人口の20%はわずか
【コロナ19マスク大乱】
■ドタバタ行政...需給対策何が問題か
一日に生産されたマスクの半分以上の500万枚を薬局・郵便局などの公的物量で解いているが殺到する需要に耐えが不可能なのが実情である。特にコロナ19が急激に広がっ後になって、輸出制限措置を実施するなど、後の祭り行政に続いて、今、先のとがっ代替がないで1つのマスクを三日ずつ使ってもなるなど、お手上げだ国民の不満が増幅されている
(略)
一日500万枚以上の公的物量供給方式も議論の対象である。5つを購入するために農協ハナロマート、郵便局、薬局などに2時間以上並びが繰り返され、高齢者や会社員は購入するのが難しいという反発が出てくる。

という様に今の日本とおそらく似たような状況が繰り広げられています。自動翻訳ですし、どこまで膾炙してるかは分かりませんが、「マスク大乱」という言葉も出来ていたようです。なので、上記記事もそうですが、数百メートルの行列が出来たり、一部ではマスクが貨幣のように使用された事が記事という事もあったようで。ですが、この状況に対して韓国は以下の様な対策を行い、品薄状態は3月末〜4月初めの頃にはなくなっているといいます。

【韓国での対策】
1)マスク増産
 当然ながらマスク増産をしています。マスク供給量が1日500万枚から1000万枚へとなってるようです。月産約3億枚。ちな、韓国の人口は5100万人。

2)マスク買い占めの摘発
 言葉そのままの意味で買い占めの摘発です。「シクヤク先、なんと105万個にも及ぶマスク買い占め摘発 」という件もあり、それなりの大捕り物(?)もあったそうですが、品薄解消に対する効果は薄かった模様。

3)公的マスクの導入
 これが効果を挙げたとされているものです。公的マスクは政府が公平なマスク需給を為、次の三つの原則を打ち出しています。Q&Aはこちら

 ①1株当たり1人2枚購入制限
 ②曜日別購入5サブタイトル
 ③重複購入確認システムの稼働

このシステムは大韓民国国民の誕生年端数を起点に、

  月曜日:1、6
  火曜日:2、7
  水曜日:3、8
  木曜日:4、9
  金曜日:5、0
  週末:平日非購入者に限って購入可能

にマスクが購入可能となるシステムです。誕生年は身分証明書を持参、本人の数量に限り購入可能で全国の薬局ネットワークに共有されるために再度の購入は不可能とされています。なお代理購入は可能ですが相応の手続きが必要です。ちなみに「公的マスク」はあくまでも政府が確保したマスクであって通常のマスクもある様で、通常のマスクは買い占めの事例が示すように一時期値段が高騰していましたが公的マスクの導入によって値段が下がったという効果も見られたようです。この対策でも「必ず買える」わけではありませんが、買うハードルが下がったのは確実です。

4)公的マスク販売データのAPI民間公開
 上記の公的マスク販売データをオープンAPI方式で民間に公開することによりアプリケーションとポータルサイトで販売時間や在庫量が判る様になりました。

5)マスク需給状況ブリーフィング
 一週間に一回、マスクの需給状況が流されていま。KTVで放映されているのかまでは分かりませんが、KTV 국민방송のページで確認可能となっています。なお、上述した公的マスクも韓国の新型コロナに関するHPに日毎の公的マスク供給の現状がUPされており、情報周知が良くなされていることがうかがえます。


 韓国の記事を見ていると、「公的マスクの導入」およびそれによるAPI公開からのアプリケーションなどでマスク大乱は終わったとされている模様です。それを示すかのような4月3日の記事では、

「薬局の前の行が消えてしまった」... マスク大乱本当に局面
先週から薬局の前に列が減る始め、今週は並ぶ場合がほとんどないということだ。キムさんは「マスク供給量は増加し、市民の需要は減少した」とし「マスクが使い切られなく残る日もある」と述べた。
(略)
食品医薬品安全処によると、2日、全国に供給されたマスクは、995万8000枚であり、過去1日には1267万4000個まで供給量が増えた。公的マスク5サブタイトル実施初期に一日のマスクの供給量が500万枚に過ぎなかったことに比較すると2倍ほど増加したことになる。
(略)
マスクの供給量が増え、マスクアラートアプリは「緑」を帯び始めた。マスクアラートアプリは、マスクの在庫が100枚以上の薬局に緑色で表示する。「品切れ」と表示された薬局もあったが、在庫が残る薬局が圧倒的に多かった。

という感じに書かれています。公的マスクは1週間2枚となり、数が足りないなどの欠点はあるもののこの数を3~4枚に増やすという検討がなされているかのような記事も存在します。公的マスク導入はマスク製造業側との調整、薬局の負担や利益の問題などなどあった様なので欠点がないシステムとはいえそうにありませんが、それはともかくとして1月末から出てきて2月以降に本格した問題が4月頭に一応の解決をしたことになります。
 最後にこれは脇道ですが公的マスク導入の話には代理店選定疑惑があり、それを保守YouTubeチャンネルや野党議員(今の政権が革新なので、おそらく保守系でしょう)が批判しているという件があるようです。ただしこれはデマと断定されているらしく、FBやtwitterの書き込みが是正要求をされるまでに至ったようです。何処の国にもデマがある。


◆台湾の場合
 台湾においても他国と同様にマスク不足が発生します。まずはマスクを政府が買い上げ(徴収)ますが、効果は上がらず。そこで以下の様な対策をしています。

1)マスクの増産
 マスクは1日188万枚から現在は1月の約7倍に当たる1日1300万枚。月産約3億9000万枚。ちな、台湾の人口は2300万人。(関連記事:台湾マスク生産7倍に 官民一体ライン増強 友好国へ無償で1000万枚 - 毎日新聞

2)実名制の導入

マスクの購入が実名制に、購入できるのは7日に1度で1人2枚まで
慢性疾患の患者に対する処方箋のケースにならい、購入を希望する人は台湾全土に6,000あまりある健康保険特約薬局へ行き、全民健康保険カード(健保カード)を機器に差し込めばマスクを買うことが出来る。外国人でも台湾での居留証があれば購入は可能。
(略)
新制度では各薬局のマスク在庫量も透明化。唐鳳政務委員(無任所大臣に相当)が、「コンビニエンスストアにおけるマスク在庫現況」マップを設置したエンジニアチームと協力して「薬局版」のマスク在庫量システムを開発することにしている。これにより、どの薬局にどれだけの在庫があるかがインターネットを通じて一目瞭然となる。

そしてその実名制度は上述した韓国の公的マスクと同様にマスクを購入できる日は曜日によって決まっています。

(1)一人につき、一週間に購入できる数は2枚。
(2)身分証番号(日本でいうマイナンバーカードに相当)の下一桁により購入できる日数が異なる。
  奇数(1、3、5、7、9):月曜日、水曜日、金曜日
  偶数(0、2、4、6、8):火曜日、木曜日、土曜日
(3)日曜日は番号問わず、全ての人が購入可能。
(4)1人につき、1人分の代理購入が可能(ただし身分証は要持参)。
(5)販売店舗には、毎日大人用マスクが200枚、子供用マスクが50枚ずつ入荷する。
台湾、パニック鎮めた「すごい」マスク購入システム 実名&アプリ連動で転売封じる : J-CASTニュース

なお上記記事では一人2枚としていますが、3月末の記事では「子どもの買えるマスクの数を14日間で10枚とし、成人も14日間で9枚」とするとし、また曜日の制限をなくすとしています(関連記事:マスクの海外郵送を条件付きで解禁、二親等内の親族に1回30枚まで

3)インターネット予約販売
 実名制導入だけでは実際にその場所に出向かなければ買えませんが、特設サイト「eMask口罩預約平台」で購入が可能(関連記事: 3/12からインターネットでマスクを予約販売、まずは試験導入 : Taiwan Today

)。記事を見ると家に届くのではなくコンビニで受け取る形式の様です。なお、事前に特設サイトや専用アプリ「全民健康行動快易通(アンドロイド版 / iOS版)」などで本人登録をすます必要あり。また多かった場合は抽選制となります。

 台湾の大きな動きは以上かなと。韓国と同じく、というか時系列的には台湾の方が早いですが実名制の導入で購入者を絞り、さらにアプリやインターネット販売を通じて供給のコントロールをする。且つ、台湾で1日1000万枚を超えるマスクの生産体制。台湾の人口が2300万人と考えればこの生産体制は需要にこたえる供給を実現するためにかなり寄与していると考えられます。


◆日本の場合
 一応、日本の対応を書いておきます。

1)マスク配布  全世帯への布マスク2枚配布。説明不要だと思うのでこれは省略します。その他にも「児童生徒及び教職員に対して、4月以降を目途に1人2枚の布製マスク」というのもあります。あと医師へのマスク配布もあります。学校や医師への配布は他国などでもやってますが、全世帯というのは多分世界初ではないかなと。それが良いか悪いかの評価は各々でしてください。

2)マスク増産
 マスクの増産は日本も同じ。日本のマスク国内生産数は日衛連によると2018年に11億1100万枚。これを月当りにすると約9300万枚、日毎にすると310万枚ほど。人口を考えればこの数は少ないと見た方が良いでしょう。ただこれは通常時の話であって後述するように増産体制を敷き、倍増近くになっている工場もあるようです。なお政府では対策本部にて3月の6億枚から、4月は7億枚を目指すと言っています(関連記事: 令和2年4月1日 新型コロナウイルス感染症対策本部(第25回) | 令和2年 | 総理の一日 | ニュース | 首相官邸ホームページ )。この6,7億枚という話は輸入マスクも含まるでしょうからすべてが国産マスクではないと考えるの自然です。従来の国内供給量は輸入分も含めて最大で月4億枚。そこから2,3億枚を上乗せしなければならず。
 で、先ほどの官邸HPの安倍首相の発言には「月6億枚を超える供給を行ったところです」とあり、3月は6億枚の供給が達成されたことが明言されています。正直、数が明記された資料がないので達成/未達成の判断が出来ないのがかゆいところで、その数が分かる資料を公表してくれ~、って思うしかないのですが、周辺状況から増産体制はどうなっていたのかを探ります。国内マスクの増産については経産省の「マスクや消毒液やトイレットペーパーの状況 ~不足を解消するために官民連携して対応中です~ (METI/経済産業省)」を参照します。それによると、

 ・2月28日:マスクの生産設備の導入等を行う事業者を3件採択
   ⇒ 合計1,500万枚の増産・供給を開始
 ・3月13日には、8件を採択(内1社辞退)
   ⇒ 増産設備の規模は約5,000万枚規模
 ・3月25日に4件を採択(内1社辞退)
   ⇒ 増産設備の規模は約260万枚規模

となり、合計6760万枚の増産体制がうかがえます。また、既存企業も先ほどの経産省HPに”国内メーカーで24時間の生産体制を敷いており、供給は2月末に毎週1億枚を超えました”とあり、週1億枚という増産体制を敷いています。また、輸入に関しては中国等から週に1000万枚レベルで輸入、4月からは週に2000万枚の輸入、それとアパレル企業がガーゼマスクをミャンマーで製造、3月中には100万枚の輸入(生産キャパは月に1億枚分)と経産省は公表しています。
 週1億枚の体制に他の輸入分や新規分を合わせれば6億枚を達成できる……? と少し疑問だったのですが、下記の東京新聞に内訳が書いてありました。

<新型コロナ>マスク不足 解消遠く メーカー「供給追いつかない」
 政府も国内メーカー十三社に設備投資の補助金約五億円を出し、四千八百万枚以上の増産につなげた。また、二月上旬ごろから中国にある日本メーカーの工場で生産されたマスクの輸入量が停滞したことを受け、中国以外の輸入先も新たに開拓。その結果、月平均の生産量三・五億枚を上回る六億枚を生産。四月以降も同様の対策を進め、七億枚の供給を目指す。 f:id:nou_yunyun:20200410173516j:plain

ところどころの数字が経産省HPとあわないというか、経産省HPの方には5億円補助の件や海外生産の数字などが欠如しているために情報に齟齬が出ていますが、とりあえずは上記の内訳で国内6億枚は達成している模様です。情報をちゃんと書いて!


 日本の体制は以上。基本はマスク増産というレベルです。韓国にしても台湾にしても共有するのはマスクの増産と購入者側の行動抑制。そしてただ行動を抑制するだけではなくマスク在庫などをアプリで可視化をしており、これは消費者側の心理としてもありがたいことは想像に難くありません。ただ、これらの身分証明書系による行動抑止、アプリによる在庫管理が日本で出来るかはよく分かりませんが。マスク買い上げはともかく配給店舗あたりで問題になりそう。アプリも一斉買い上げと供給が無ければ難しいでしょうし。
 あと日本の状況の最後に書きましたが経産省のマスクに関する情報ページの情報が薄い……。多分、あそこが日本のマスク情報を収集するHPだと思うんですが、

f:id:nou_yunyun:20200410173938j:plain

f:id:nou_yunyun:20200410174000j:plain

という様にマスク供給についての情報が書かれても何枚確保したのかが謎であるし、月の生産量、供給量の情報もない。詳しい情報があるのかと思って(参考)というリンクを押すと経産省ツイッターに飛ばされるという謎仕様。マスクの供給自体は数値上実行されています。ですが、それを外側から見える情報が記されていないという著しく透明性の低い状況になっています。PR作業だけではなく供給情報の透明性確保も不安解消につながるはずなので、せめて情報の透明性とあと情報が分かりやすいページであれば良いのになと切に思います。そこら辺は出来るはずですし。

マスク(字幕版)

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北朝鮮への帰国事業について その2

 以前こんな記事を書いたのですが、

nou-yunyun.hatenablog.com

帰国事業に関する菊池 嘉晃による『北朝鮮帰国事業 - 「壮大な拉致」か「追放」か 』(中公新書)を読んだので、帰国事業に関する補足記事です。

◆帰国事業「日本による厄介払い説」について
 帰国事業は在日朝鮮人を厄介払いしたい日本が発端だという説もありますがこちらは誤りで、発端となったのは在日朝鮮人からの市民的運動だったと言えます。元々在日朝鮮人の中では帰国意思そのものが高く、朝鮮半島帰国への声は元からありました。ただし当時の韓国は済州島四・三事件や国家の反共体制、生活の困難さから韓国への帰国を躊躇う状況が存在し、逆にそこまで内情が知られていない北朝鮮や当時は今以上に勢いのあった社会主義に対する羨望から北朝鮮への帰国を求める人間は多くいました。そこに北朝鮮政府や日本左派*1が関わっていきます。ただ確かに日本側にも以下の様な厄介払い願望を国会のやり取りで確認はできます。

岡田委員:最後にもう一点だけお伺いをいたしますと、牧野さんはこの前のこの委員会で北鮮*2に帰りたい人も帰しますと断定されたはずです。(略)大臣が帰しますと御答弁になっておられるならば、どのような方法でいつお帰しになるか、この点をはっきりもう一度お尋ねしておきたいと思います。
野国務大臣:どうもあなたはえらく私を詰問するようにおっしゃるけれども、これはもっと懇談しましょう。これは帰すのがほんとうだ。あんな連中を日本に置くことは皆さんほんとうに困りますね。そして食わせなければならぬでしょう。そしてこんな事件*3が起きるから、一日も早く帰したい。
第24回国会 衆議院 外務委員会 第6号 昭和31年2月15日

「厄介払い」*4とは、当時は今以上に在日朝鮮人の貧困、差別が問題でしたし、生活保護率の高さなどが問題になっていました。ですから日本政府が在日朝鮮人を帰国させたがっていたというのは事実でありますし本音でしょう。ただし当時の日本は韓国との国交交渉などをやっており、そして韓国は自国ではなく北朝鮮への在日朝鮮人帰国は許しがたいというスタンス*5であり、事あるごとにそれを阻止するという行動をしています。付け加えて言えば、この頃には李ラインを超えた日本人漁民が実質的な人質として捉えられていた件もありますし、日本は率先しての「追放」は不可能な状況といえます。また帰国希望者に関しては一部の例外を除いて全員に帰国意思を尋ねており当事者の自由意思を尊重していました*6ので、日本による厄介払い説は差別や社会保障的な存在、また時折ある本音からそう見える部分はあるものの、これは誤りといって良いでしょう。北朝鮮への帰国を望む人々がいたのは確かですし、彼らの「出国・帰国の自由」を妨げる方が問題ではありましたでしょうし。ただし、その帰国先に自由がなかったのが著しく問題だったわけで。

◆「地上の楽園」をはじめとした帰国誘因について
 まず前の記事でも書きましたが、帰国事業当時に北朝鮮を「地上の楽園」といってはやし立てた大手新聞紙はありません。ですが、少なくとも批判的論調は見受けられずどちらかといえば好感情をもって伝えていたというのは事実でしょう。その証左として、帰国事業の決断に対して日本の主要新聞はすべて次の様に支持を表明しています。

産経新聞が社説「北鮮へ希望者の送還 わが漁船を守る備えが肝要(59年1月31日)を出したのに続き、読売新聞が「送還先選択の自由を認めよ」(2月1日)、朝日新聞が「北鮮帰国につき 国際世論に訴う」(2月2日)、日本経済新聞が「北鮮帰国方針を貫け」(2月3日)などの社説を掲載した。内容や論旨に差があるものの、共通するのは、人道問題として故国への帰還を認めるべきだとしたうえで、日本政府の見解を基本的に支持し、韓国政府を批判している。
菊池 嘉晃『北朝鮮帰国事業 - 「壮大な拉致」か「追放」か 』

この好感情には北朝鮮の内情が判っていなかったというのもあるでしょうが、それと共に新聞に限らず日本国内において(厄介払い的感情もあったでしょうが)「祖国へ帰国できなかった在日朝鮮人が希望通り帰国する」というのは人道的理念、植民地支配への贖罪に適うという世論があったと考えられます。全国の地方議会でも帰国促進決議が相次ぎ、日本国内で帰国実現を支持する世論が高待っていたのは事実だと考えられます。また当時の朝鮮総連が帰国事業を決断しない日本政府を「人権無視」と批難したこともあったようですが、北朝鮮の実情を知らない当時にこの批判は十分に機能しえたでしょう。
 さて「地上の楽園」という言葉ですが、これは総連1958年9月19日の以下の声明から使われる様になったようです。

「悲惨な境遇に苦しむ在日朝鮮人地上の楽園へと変わりつつある祖国に一日でも早く帰り、祖国の暖かい懐の中で幸福な生活を営もうという希望に立ち上がっている」
菊池 嘉晃

そして機関紙や声明で「地上の楽園」が使用されるようになります。この声明の数日前には北朝鮮の外相が帰国者の生活安定や教育補償を発しており、「地上の楽園」は帰国希望者やその周辺にはある程度の説得力のある言葉(プロパカンダ)になっていったと思われます。この他にも帰国促進の為に総連などはスライド写真によるアピールや総連系活動家による訪問勧誘などを行っています。また、菊池によれば三者的な日本人による北朝鮮を描いた二つの書籍も影響を与えたといいます。その本とは寺尾五郎による『三八度線の北』と日本の大手紙記者(朝日、共同、産経、毎日、読売)による『北朝鮮の記録 訪朝記者団の報告』です。寺尾は日本共産党員として長く活動しており、在日朝鮮人帰国協力会の幹事でもありました。なので元からバイアスがかかっていた日本人と評されても仕方なく、その本は北朝鮮の実情を日本よりもまだ下であると言いながらもその後の成長をうかがわせる内容だといいます。礼賛一辺倒ではなく発展を匂わせる手法は帰国を迷う人間には後押しになったと考えられます。『北朝鮮の記録 訪朝記者団の報告』についても今後の発展を匂わせ、批判的意識が薄かったようであり、新聞などよりもこういった書籍の方が影響力は大きかったかもしれません。
 なお、日本は北朝鮮の実情がわかっていなかったのか。それについては以下の様な注意がなされており、必ずしも信頼できる国とは思っていなかった節もうかがえます。

公安調査庁は、同町の調査によれば帰国者数が二万~三万人程度なのに(総連は)「誇大に発表し宣伝に利用している」とし、帰国運動の狙いとして「①当面の日韓会談のぶちこわし、②共産国力宣伝と国交正常化、③人手不足の補充」などがあると新聞の取材に説明していた。故郷の韓国を捨て「路頭に迷う恐れのある北鮮へ送り出すことは非人道的である」とも指摘していた
菊池 嘉晃

公安調査庁によれば帰国の先にある未来を予測していますが、これは公安調査庁の情報収集能力が高かったのか、そのイデオロギーによる予測なのかはよく分かりません。ただし、こういった帰国へのマイナス情報を法務省や治安・公安当局は報道機関などを通じて流していたと菊池は述べています。なお、韓国は当然ながらこういった情報出していますが、総連や日本共産党などはこういった否定的な情報を「反共宣伝」、「韓国のでっち上げ」として抑え込もうとしています。結果的にはこちらの注意が正解だったわけですが、当時を考えれば中々にこの注意を信ずるというのは難しかったかもです。私自身が当時いたら賛成派にいた様な気もします……。

 ここらで終わりにしますが、菊池 嘉晃『北朝鮮帰国事業 - 「壮大な拉致」か「追放」か 』は帰国事業の歴史の流れを知る意味では大変勉強になる本でした。あとがきで著者自身がマスメディアの動きはあまり書けなかったとあり、確かにその面では物足りなさがあるのは事実です。あとアメリカ、中国、ソ連などの外国の影響による記述も少ない。ですが、帰国事業の全体的な流れを追うには十分な本じゃないかなと。良い本でした。

*1:当初は日本左派が関わっていましたが最終的には超党派になりますし、当時の政権は自民党なわけなので日本左派のみが率先したとは言えないかと。

*2:原文ママ。現在では不適当な表現ですが、当時のまま引用しています。

*3:在日朝鮮人が多く収容されていた大村収容所における事件。当時は朝鮮半島の南部出身者でも北朝鮮への帰国を希望する人たちがそれなりおり、ハンガーストライキにまで発展しています。その北朝鮮帰国希望者に対して暴行事件が起こって死亡した事件がここでいる「事件」です。なお、大村収容所の帰国希望者は韓国との日韓交渉においても懸念となる外交要因でした。

*4:この時期、日本は南米移民を進めており移民供給国でした。つまり「厄介払い」には日本人も含まれていると考えてもいいかもしれません。

*5:帰国事業開始時には李承晩は「北送船撃沈計画」を支持するなど、度を越した対応すら見せています。

*6:この意思確認についての方法は北朝鮮側と揉めることもあったようです。最終的には赤十字国際委員会立ち合いの下で行わたといいますし、多くの場合は「自由意思」の下での意思確認はなされていたと考えられます。

韓国の強制自宅待機への支援物資の話について

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ってツイートがあったので、韓国がどういう支援体系なのかが気になったので調べてみた! みたいな記事です。そもそも前段としてツイッターを見てると韓国は良くやってるという話をよく聞き、それは日本にいるとまあ雲と泥だな、みたいにはなるわけで(どっちが泥かは聞かないで布マスク)紹介したい気持ちはとてもよくわかるのですが、正味な話、性格が悪いので少しだけ引っかかるものも確かなわけで。


4月17日追記
下記のコメントをもらいました。

すでにご存じかもしれませんが、韓国では外出して買い物をすれば逮捕されるくらい隔離を徹底させているそうですね。 https://twitter.com/tabisaki/status/1249919076467494914 そうしているから支援品を潤沢にした、という順序で考えるべきなのかもしれません。

確かに記事中で説明してなかったですね。韓国でこういった隔離者は隔離に違反すると罰則がある実質的な強制隔離となります。故にこういった支援があるというのはその通りで、順序としては隔離で人権を制限するからその分の補償を、という感じなのかなと。
 以上追記終わり。


 まず上記のツイートの写真なんですが、2枚目(右)の方の写真は日本語圏、英語圏ポーランド語圏、ロシア語圏などなど、若干ですが世界的に拡散されています。しかし、韓国語圏はヒットしない写真……。いずれの写真もグーグルの期間指定検索をすると3月31日当たりに出た写真で、投稿内容を見る限りはredditが初出なのかなと。投稿者は韓国市民ではなく韓国在住外国人っぽいですが、地方政府から受け取った、インスタグラムを見るとそのような状況が当たり前という様な事を言っていると思います。なお他のスレッドでこれは偽物だという返信もあるようですが、非常によく似たパッケージを受け取ったという別の方が反論しています。多分、どちらも真で居住自治体や漏れ等もあるのではないかなと。

さて、次。

これは韓国の記事に写真があります。自動翻訳ですが、内容を見てると「サムスングループが保健所を介してサポート」云々とあるので、企業と自治体とのタッグとは言えますが、件のツイートの「自宅隔離者に対して自治体」云々というのは若干ですが事実誤認といえるかもしれません。ちなみにこの記事を読むとこの中身を紹介したA氏は最初はサポート品と言えどもしょぼいものだと思ったら……、みたいな事が書かれていますので、このサポートの豪華さが常というよりも、この危機的状況や2週間隔離を合わせてこの様なものになったことがうかがえます。
 ちなみに、写真初出のツイートを見つけましたが、それへの返信と共に引用します。

https://twitter.com/alskfl13/status/1243401330825129985

返信の方も同じような隔離用支援物資ですが、見た目の写真通り地域によって結構な格差があるようです。これはサムスンが関わっているかどうかの違いな様な気もしますが。

◆韓国の支援物資系記事
※すべて自動翻訳なのを留意してください。

 韓国の新型コロナに端を発する支援物資系記事は探すと結構出てきて、まずは政府以外の支援団体も割とあります。

2日、釜山東西大で学生組合学生がコロナ19の影響で大学側の管理を受けている外国人留学生に渡す「愛の生活必需品ボックス」を作っている。組合は、マスク、飲料水、果物、お菓子、ラーメンなどが盛り込まれたボックス80個を作って、外国人留学生に伝えた
留学生のための生活必需品ボックス

 

1日の赤十字奉仕会富川地区協議会でコロナ19克服のために、生活必需品のセット170ボックスを富川市に追加寄託した。
赤十字奉仕会富川地区協議会、富川市に生活必需品をサポート   揚州市ボランティアセンターは25日、コロナ19を克服するため、管内脆弱階層に感動分かち合い、生活必需品キット220ボックスを伝えた。(中略)消毒用ウェットティッシュ、マスク、ハンドウィッシュなどのコロナ19予防物品をはじめなら、海苔、包装米飯、スパム、マグロなどの食料品とシャンプー、リンス、歯磨き粉など20種類以上の様々な生活必需品で構成した。
洋酒ボランティアセンター、生活必需品のキット220ボックス配信

以上の様に赤十字や学生組合、ボランティアセンターなども支援物資を提供しています。当然ながらこれ以外の記事でもいくつかの政府系以外の機関による支援報道は結構あります。
 で、一番重要な、というか本題ともいえる行政による支援を。

全国地方自治体ごとに新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)の拡散を防止するため自己隔離措置された市民に食糧や生活必需品などを用意して伝えている。ほとんど隔離当事者が要求する物品を担当公務員が購入しているボックスを満たし「配信」する方式である。
多数の自治体が伝えてきた支援物品ボックスを見ると、インスタントご飯となら、ミネラルウォーターなどガンピョンシクは必須アイテムに属する。ここで、マスクと手洗浄剤、トイレットペーパーなどの衛生用品も常連項目である。人によってもやしやタマネギ、食用油、豆腐のような食材のサポートを必要とする場合もある。(中略)
支援物品の種類と量、製品のブランドが地域によって異なることもある。自治体で組織した緊急福祉予算規模に応じて世帯当たり支援物品購入限度が異なるためであるが、例えば、ソウル市内自治区の場合、ほとんど10万ウォン以内であるのに対し、全羅北道群山市の場合、20万ウォン台まで購入が可能である。
自己隔離者の救援物資箱... その中不思議
※2月17日の記事

これは2月時点での記事ですが、この記事を読むと自治体の支援はリストからの注文方式という感じに見受けられます。購入に関しては、後半の方に福祉予算云々とあるので隔離者負担ではなく自治体負担なのかなと。ただ自治体によって予算額が違う為に格差的なものが生じると。なお、上記記事を見ると結構写真が載っています。

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20万台で救援物資を構成。群山市提供 f:id:nou_yunyun:20200403134808j:plain
ソウル冠岳区の自己隔離版生活必需品

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赤十字社京畿道知事が隔離者のために製作した緊急救援のセット

1枚目は値段内の注文方式、2枚目は生活必需品(値段内の注文かは謎)、3枚目は緊急救援のセットとなる為にどれも支援体系が異なっているとは思いますが、実際に自治体やその単位による支援物資の差はあるようです。

 韓国の自治体のHPに行けばまた詳細な情報があるかもしれませんが、ソウル市のQ&Aを自己隔離後の生活支援~に対して「詳細はお問い合わせください」とあったのでギブです。なのでここらで終わりにしますが、まず日本でバズっているツイートはどういう形態なのかが良く分かりません。多く見積もって20万ウォン台にしても物資がやや多い気がしますが、ギリギリ入りそう……? 韓国在住ではないので何とも言えませんが、他の写真と比較すれば韓国における支援物資の中では結構豪華な部類なのかもしれません。

 日本政府や各地方自治体は強制自宅隔離になった時、こういうことしてくれるのかしらん。


◆4月4日追記
 韓国の自宅隔離支援物資画像をあさったり、記事を調べた分の追記。はっつけるだけの簡単な追記。

www.edaily.co.kr

当局は、衛生キットと生活必需品を支援する。Aさんは、マスク、消毒剤、体温測定器などが含まれている衛生キットを受けた。キットには、ごみを別途処理することができるようゴミ袋も含まれた。ウォードは準生活必需品にはボトルウォーター、休止、ラーメン、米、レトルト食品などが入っていた。

以上はソウル城東区

www.civilreporter.co.kr

21万ウォン相当の生活必需品と食料品などを緊急支援した
(中略)
監視と各対象者別の日常生活の要求品目(食材、生活必需品など)を担当公務員が代わりに購入している対象者の家にすぐに伝えており、絶縁生活の中で発生することがある不具合の解消のために努力している。
対象者別オーダーメード型のサポート

以上は群山市。 次からはツイッター画像から。

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一番下の支援物資にはお米まであるし、一番豪華かなと。写真を見てもわかる様に支援物資には大きな差がありそうで、これは居住自治体による差と考えるのが妥当でしょう。豪華かどうかの価値観は人それぞれでしょうが、少なくともいずれも「粗末」とは言えないかなと。今回の記事の発端にした写真の物資はこれらの他の物資と比較しても多い気はしますが(トイレットペーパーのボリュームの影響もありましょうが、それでも多い)、一応は自治体による差の範疇には収まるのかな? もしくは隔離者が一人とは限らない、みたいな可能性を考えれば……?

ツイッターを張るだけの簡単な記事、楽!

国民皆保険についての話

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 世の中が急転直下なこの頃、斯様に世が荒めばSNSも荒むのが常。とはいってもSNS は常にそんな感じだし、上記の方は荒まなくてもSNSデマ常習者という印象を私などは持っておりますが、それはさておき国民皆保険の話でもでも。

 まず平成26年厚生白書において、

(5)国民皆保険の実現
我が国の社会保障制度は、第一次世界大戦後の1922(大正11)年に制定された健康保険法をはじめ、他の先進諸国と同様に、まず労働者(被用者)を対象として発足したが、労働者以外の者にも医療保険の適用範囲を拡大するため、1938(昭和13)年に旧国民健康保険法が制定され、戦後の国民皆保険制度の展開の基礎が作られた。
 しかし、医療保険制度の未適用者が、1956(昭和31)年3月末時点で零細企業労働者や農林水産業従事者、自営業者を中心に約2,871万人(総人口の約32%)存在し、大企業労働者と零細企業労働者間、国民健康保険を設立している市町村とそれ以外の市町村住民間の「二重構造」が問題視されていた。
 このような課題に対応する観点から、政府は、国民皆保険の基盤を確立するため、国民健康保険制度を強化すべく1958(昭和33)年3月に、
①1961(昭和36)年4月から全市町村に国民健康保険の実施を義務づけること
②給付の範囲を健康保険と同等以上とすること
③国の助成を拡充すること等
を内容とする「新国民健康保険法」案を提出し、1958年12月に国会を通過した。
 この法案は、翌1959(昭和34)年1月から施行され、当初の予定どおり、1961年4月に国民皆保険の体制が実現した。
平成26年厚生白書

と記されています。これらを簡略化すれば国民皆保険の流れは、

1922年 健康保険法
1938年 旧国民健康保険
1959年 新国民健康保険
1961年 国民皆保険の体制が実現

となります。元々の発端ツイートは国民皆保険の話で、それへの突込みに対して国民健康保険の源流ともいえる健康保険法や旧国民健康保険法を出すのは歴史的な説明としてはありですが、しかしながらこれらの法律は「総人口の約32%」が未適用という欠陥が存在。そのレベルの人口が未適用な状態を「国民皆保険」というのはそれこそ「嘘」といっても差し支えない状況でしょう。ご自身は嘘と突っ込みながら嘘レベルの事を言ってるわけです。そもそも国民皆保険はデモによって出来たという話に、国民皆保険とはいえない制度が国主導で造られたという突込み自体が甚だおかしな論点ずらしなわけですが。
 では、さらにさかのぼっての話を。

◆健康保険法
 条文は厚労省HPのこちらから確認可能です。
 さて、これを富国強兵の為に国主導でつくられたとありますが、まず考えなければいけないのはこの時代は労働運動の季節も盛んな季節でもあったわけです。まずそもそも労働環境が酷かった。

第一次世界大戦の勃発による戦争景気を受けて、重化学工業が発展し、機械器具・化学工業における工場数・職工数は著しく増大し、産業構造は軽工業から重工業へと変化した。(中略)産業の発展、職工の募集難から労働環境改善への関心は高まっていたが、生産増強から労働強化は避けられず、むしろ労働者の負傷・罹病率を悪化させるほどであった。
 職工1,000人当り負傷率は、1917年44.2人、翌1918年にはいっそう上昇し、さらに1920年には67.9人と増大を続けた。(中略)職工の罹病率は、特に女工において高く、男工の2倍弱となり、1918年には1,000人当り罹病率452,4人を記録した。
 鉱夫の負傷率は明治末より著しく上昇し、1919年48.1%、1920年46,5%と、工場の職工よりも高く、毎年半数近くが負傷する数値を示している。死亡者も、死亡率は変化しないものの、依然多数に上っていた。労働災害の増大だけでなく、労働者及び国民の疾病の増加に対しても国家にその対応を迫るものとなっていた。
西村 万里子『日本最初の健康保険法(1922年)の成立と社会政策 : 救済事業から社会政策への転換

そして労働争議の数もこの間に増えており、

労働組合は1916年から増加を見せ、1919年以降さらに急増した。労働争議も、件数において1916年から著しく増加し始め、1919年最高497件に達した。1920年3月からの戦後恐慌により争議件数は減少したが、労働争議の性質は変化し、争議継続日数の長期化、参加人員の大規模化が起こった。
西村 万里子

となり、最終的には

1919年6月8日の関西労働同盟の労働問題討論会において「労働保険は組合組織に依るべきか、政府によるべきか」が議題に上がるほどになった。同年8月31日、友愛会の方向転換を示した第7周年大会(本大会にて大日本労働総同盟友愛会と改名)における「大会の宣言」の中で、女工の悪状況、労働者の死亡率の増大、生活不安からの乳児死亡の増大が指摘され「主張」の一つとして「労働保険法の発布」が掲げられた。
西村 万里子

というように「労働保険法の発布」が掲げられています。医療費は当時の労働者の平均的賃金の2割という調査や、規定通りの料金を得られている医師は1,2%という調査もあります(西村 万里子)。負傷率や平均賃金の2割の医療費を考えれば、医療に対する何らかの保険、もしくは保障が社会的に必須だったのは間違いないでしょう。
 つまりは1922年の健康保険法について、この時代の背景を知っていれば「国主導」という括りだけで括れるものではないことは窺い知れると考えます。さすがにこれらの背景があっても「国主導」というのならば、それは信仰の告白でしかありません。例えば1918年9月の米騒動を受けて、当時の野党である憲政会は社会不安の緩和策として1920年1月に「疾病保険法案」を発表していたりもします。政治家は民衆の動きを当然ながら見てるわけです。その視点が欠如した「国主導」は物事を考える際に目を曇らせるだけです。
 なお、これらの保険的な考えはなにも労働側だけの着目ではなく資本側でも保険体勢の構築が見られ、社会全体としてそちらの方向性へと徐々に向かっている時期といえるかもしれません。また1919年に第1回国際労働会議の開催によって種々の議題が出たことや、他の先進国では普及してきた社会保険に対して、日本でもその整備を整える様になる国際的圧力があったであろうことも想像に難くありません。

◆旧国民健康保険
 まず旧国民健康保険法の発端は、

国民健康保険法の立案は,1933年から内務省社会局において開始された.「思想対 策として国保を制定すべし」という社会局保険部長,川西実三の提案がその契機であったとされる.
豊崎 聡子『恐慌期農村医療の展開過程 : 医療組合運動から国民健康保険法へ(2000年度シンポジウム 人口の窓から見る近代日本農業史)

とある様に「思想対策」という国家的な考えから始まったといって良いでしょう。さらに、

 昭和恐慌で農山漁村は疲弊し、劣悪な衛生環境も災いして、住民の健康が脅かされ、体力低下が深刻な問題となっていた。病気にかかったため医療費が工面できず、医者にみてもらえない者が多かった。
 このように逼迫する国民保険・医療の需要にこたえ、医療費の負担を軽減し、保険・医療を普及させることが国保法案の本来の趣旨でった。同年7月7日盧溝橋五事件を契機として日中戦争が本格化する様相を呈してきた。このことは国家総動員体制の確立を促進させ、国防力の充実強化が時局の要請となった。その一環として国民の体力向上という役割が国保法に求められることになった。
Abitova Anna『見合わせになった国民健康保険法案

という指摘がある様に当時は恐慌があり、農山漁村の疲弊が起こります。特にこれらの村々では医療費の負担が大きく、農村の医療問題を十分に解決できなかったことが国民健康保険の創設を促す動機の一つとなったとされています(Abitova Anna『不成立に終った国民健康保険法案』 )。Abitova Annaによれば広く一般国民の健康を保険システムによって保証しとうよした背景として以下の指摘をしています。

(ア)古くから農村においては医療共済組合に類する事業(定礼)がかなりみられたこと
(イ)昭和2年から実施されていた健康保険制度が労働者の健康の保護に効果を示し始めていたこと
(ウ)海外ではデンマークスウェーデンなどにおいて広く一般国民を対象とする国民健康保険制度は設けられ、多くの成果を上げていたこと

 旧国民健康保険に関しては恐慌による失業、農村の窮乏などが存在しており、これによって法案成立という流れがありますので、「国主導」というのはそこまで過ちでもないでしょう。ただし、(ア)でも触れられていますが次のような指摘も存在します。

それ以前の恐慌期の段階ですでに医療組合運動が存在したという歴史的事実であ り,このことはまた,戦時期においても国家が農村医療の重要性一一たとえそれが健民健兵策としてであったとしても一一を認めざるをえなくなったこと,<下>からの運動と <上>からの統制との間のせめぎ合いがあったことをそれは意昧している.またそうした政策(=国保法)の実現は,農民のいわゆる「自発性 」に基づく「地域原理」 を基礎とする共同体によって可能になることが,ついに認識されたと考えられるのである.
豊崎 聡子

既に農村では医療組合運動が存在しており、国保法成立を考える際には重要な点であると考えます。また当然ながら恐慌に際してはファッショ思想や農村救済を叫ぶ右翼活動、また左翼においても労働争議などもありますので、これらの民衆の声が全く関与がなかったわけでもないかなと。
 旧国民健康保険法に関しては「国主導」というのは一面では正しいでしょう。しかしながら、その別の側面では(過大に評価してはいけませんが)それを下支えるような動きがあったのも事実です。あと件のツイートでは「富国強兵」って言ってますが恐慌による窮乏対策の側面が強く、到底「富国強兵」とは思えません。細かい話ではありますが、そもそも昭和や大正の時期を「富国強兵」という言葉で表すには正直違和感があります。

◆新国民健康保険
 こちらについては手短にいきます。新国民健康保険法がデモによって勝ち得たかはよくわからんのですが、少なくともこういう記述があったりします。

国民皆保険は厚生省が積極的に推進したものだと思われがちであるが、実はそうではない。厚生省が国民皆保険の実現に本腰を入れたのは1957年以降のことであり、「伊部(引用者注(※引用者=島崎):新国民健康保険法制定当時の国民健康保険課長であった伊部英男を指す)によれば、厚生省内は保険局も含めて昭和31年(1956年)ころまでは国民皆保険に消極的で、『国民皆保険なんてできるのかという雰囲気に近かった』」(有岡、1997、109頁)のである。実際、当時の保険局の施策の優先順位は3年後の健康保険法改正案の成立や診療報酬問題への対応にあり、国会対策上の理由もあって、1957年の通常国会には新国民健康保険法案の提出を見送っている。これに対し地方団体やマスコミが猛烈に反発し、これが国民皆保険推進本部の設置を促すことになったというのが真相である。
島崎 謙治 『国民皆保険とその前史の成立過程に関する覚書

上記の話の出典は「厚生省保険局国民健康保険課(1960)」とありますので、これは確度の高い情報でしょう。少なくともマスコミが猛烈に反対している事から、そこからの市民の声があった事は確実であり、それがデモがあったからといえるまでかは分かりませんが、こちらも必ずしも「国主導」だけで行われた制度ではありません。


 新国民健康保険についてはもっと掘ればたくさん情報が出るのでしょうが、とりあえず時間的にここまでとしときます。ただ、少なくとも国民皆保険やそれに類似する大きな問題の場合、「国主導」というのはおかしくって普通に考えてそこにはそれが生まれる社会状況や市民の声があるはずです。そして時に国はその声に反応して内容を修正したり、酷ければ引っ込めることだってあるわけです。勿論、聞かずに無視されることもありますが。
 我々は少なくとも今現在「民主主義」の社会に生きているはずで、そこでは市民の声によって時に良く、時には悪くも政権はその声を聴かなければなりません。そこでその市民の一人がデモを揶揄する為かのように「国主導」という事を、それも事実誤認に等しい論調で指摘することは民主主義を放棄して、国家主義全体主義的な一助にしかならないでしょう。本人はその気はないかもしれませんが、上述した様に今回のあのツイートは信仰の告白でしかありません。

◆参考文献
西村 万里子『日本最初の健康保険法(1922年)の成立と社会政策 : 救済事業から社会政策への転換
河野 すみ子『健康保険法成立過程の史的考察
Abitova Anna『不成立に終った国民健康保険法案
Abitova Anna『見合わせになった国民健康保険法案
豊崎 聡子『恐慌期農村医療の展開過程 : 医療組合運動から国民健康保険法へ(2000年度シンポジウム 人口の窓から見る近代日本農業史)

読んでないけど、参考になりそうな文献
坂口 正之『健康保険法施行直後の資本家および資本家団体の改正意見とその分布状況

国民皆保険への途

国民皆保険への途

国内観光における訪日外国人客のシェアについて

この報道に騙されるべからず。日本国内観光における訪日外国人客のシェアは5パーセント程度。観光地や観光産業の冷え込みは95パーセントの日本人客が動き出せば大方解消できる。日本人が国内旅行しやすくする助成策を終息後に即実行。

 2019年の訪日外国人ってJNTO(日本政府観光局)によると3188万人を超えているわけですが*1、それすべてが観光客ではない*2とはいえ訪日外国人の日本国内観光におけるシェア5%程度というのは感覚的に違和感を覚えたので調べてみた次第。
 ただひとまず詳しく調べなくても言えることですが、例えば韓国人観光客の大幅減で対馬などは相当な打撃を受けています。2017年3月の対馬市観光振興推進計画によれば2015年の観光客数の58万人中21万人が4割近くが韓国人観光客、それが2018年では韓国からの訪日観光客数は41万人。対馬は3年で20万人もの観光客が増加し、そしてその増加分が著しく低下したわけですが、その減少分をカバーできるほど日本人は対馬に行ってはいない。というか常識的に考えてその数を一時的にではなく恒常的に日本人観光客で補える分の観光客を呼ぶのは甚だ困難というか、無理でしょう。よしんば、対馬でそれを実現できたとしても日本国内の数々の観光地で訪日外国人減少分をカバーする為に日本人が国内旅行をするのは不可能といっても過言ではないかと。

 閑話休題さて本題。

 「日本国内観光における訪日外国人客のシェアは5パーセント程度」ですが、この「シェア」が具体的に何を指すのかがわかりません。「旅行人数」もしくは「旅行消費額」の何れかと考えるのが妥当と考えますので双方を見ていきます。で、それが判るデータですが 「観光庁 観光白書」を参照するのが妥当でしょう。
 まずは「旅行人数」ですが、2019年度版の観光白書によると、

【2018年の日本国内旅行客数】
 日本人国内宿泊旅行 :2億9105万人
 日本人国内日帰り旅行:2億7073万人
 訪日外国人     :3119万人*3

日本人の旅行客は5億6178万人、訪日外国人は3119万人でその割合は約5%となり、確かに有本氏の言う通りの人数視点で見た訪日外国人旅行者数のシェアは5%の様です。では旅行消費額という視点で見ればどうか。これも同じく2019年度版の観光白書を見ますと、

【2018年の日本国内における旅行消費額】
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 日本人国内宿泊旅行     :15.8兆円(60.6%)
 日本人国内日帰り旅行    :4.7兆円(17.9%)
 日本人国内海外旅行(国内分):1.1兆円(4.2%)
 訪日外国人旅行       :4.5兆円(17.3%)

以上のような結果となります。

金額ベースで見れば日本国内観光における訪日外国人客のシェアは17.3%となり、5%を大きく上回っています。さらに宿泊に絞ったデータも存在しており、そこでは、

【日本人・外国人の延べ宿泊者数の推移】
 日本人延べ宿泊者数は4億2043万人泊(83%)
 外国人延べ宿泊者数は8859万人泊(17%)

となり、宿泊数上でのシェアは17%。こちらも5%を大きく上回ります。それとシェアの話ではありませんが観光白書では訪日外国人向けに「コト消費(スキー、スノボ、マリンスポーツ、温泉入浴などの体験型観光)」を強化して消費額が成長している地方も存在しており、2012年から2018年で訪日外国人は3.7倍にまで拡大しましたが、旅行消費額は4.2倍と人数を上回る伸びを見せています。また日本人・訪日外国人の平均旅行消費額ですが、

【日本人・外国人の旅行消費額】
 日本人宿泊旅行  :5万4243円
 日本人日帰り旅行 :1万7264円
 訪日外国人旅行支出:15万3029円

以上の様に日本人と訪日外国人では落とす金額に大きな差異が存在します。(差別心から端を発する)一部界隈では落とす金額の少ないと言われる韓国人でも8万ほどですので、言い方は悪いですが訪日観光客は日本人よりも多くのお金を落とすお客でもあるわけです。単純に失った訪日人数分を日本人で補ったとしても金額ベースで言えば補えない状況です。


 「人数」という一面から見れば有本氏は正しいことを言っています。しかしながらより重要であろう「金額ベース」で言えば訪日外国人のシェアは17%であり、数値の矮小化を図っているというそしりを受けても致し方ない数字の利用でしょう。訪日外国人は様々な場所に旅行に行き、2019年を考えれば3000万人規模なわけです。上述しましたが、助成策で日本人が国内旅行をすれば「ある程度」は解消できる問題ではあるもの恒常的にすべての観光地を救うかといえば、難しいでしょう。

訪日観光の教科書

訪日観光の教科書

*1:2018年は3119万人で2019年は微増。韓国からの訪日外国人は夏以降にかなり減少しており、この減少がなければあと200万人くらいは増えていた可能性は大いにあります。

*2:2018年の観光目的は2776万人。単純に当てはめれば2019年もこの程度の人数が観光客となると思われます。

*3:JNTOでは観光目的の訪日外国人とそれ以外の目的で分けているようですが、観光白書では訪日目的別には分けておらず単純に訪日外国人=観光客としている模様です。